2015年8月のM&Aによって、ネット不動産仲介として断トツの地位を確立した「ノマド(nomad)https://nomad-a.jp/」は、無店舗、直接物件見学可、といった既存の仲介業の常識を覆すサービスを「仲介手数料ゼロ」というインパクトで提供している。ノマドを運営するイタンジの代表の伊藤嘉盛氏へのインタビュー、 今回はその統合の経緯を含め、M&Aで得たこと、失敗したこと、学んだことについて前編に続いて伺う。

<2> イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー<M&A後編>

●大成功!?と思いきや…カベに直面

―まさにM&Aによるシナジー効果を得られた。大成功ですね。
 いえ、実はもっといけると思っていました。それを阻んだのが「文化」の壁です。この問題が実に難しい。エンジニアが主体のヘヤジンプライムとオペレーター主体のノマドは文化が違ったんです。

 働き方一つとっても文化が全然違う。エンジニアは、はたから見るとだるい感じでパソコンに向かって仕事している。一方、接客するオペレーターは元気で体育会系。休みに関しても、エンジニアは土日は休みますが、逆にオペレーターは土日が忙しい。

 そのため、現場ではお互いの文化に慣れることに時間が掛かり、業務の連携に滞りが生じる場面がありました。また、統合によってヘヤジンプライムのオペレーターが離職するなど組織面での苦難もありました。その反省から、現在は目標管理や評価制度の再構築や個別面談の設定、全社の懇親会を増やすなど組織改革に力を入れています。

―M&Aはメリットもある反面、こうした課題も意識しておかなければなりませんね。
 僕は以前、設立した会社を売却した経験もあります。その際、売却後に多くの従業員が去ってしまったと聞き、非常に後悔の念を感じました。売却先が上場企業というのもあって、どちらが正しいということではなく、経営管理体制や意思決定の仕組みが中小企業とは大きく異なっていたことも原因になっていたと思います。

 また、とくにベンチャー企業の場合、会社が経営者に依存しすぎてしまうという傾向があります。以前の会社はまさにそうで、僕は強いリーダーシップで従業員を引っ張っていました。だから会社が売られて、僕がいなくなったのと同時に、「社長について来たのに」ということで、従業員も離れて行ってしまったのだと思います。この経験によって経営者としての未熟さを痛感しましたし、「会社が継続する本質的な要因とは何か」という問いが生まれました。

 そこで、イタンジでは自分がいなくても回る「仕組み」を重視しています。これは自分が楽をするためではなく、トップダウンの強いリーダーシップを発揮するよりも、あえて従業員の後ろからついていくマネジメント方法をとっています。いわば「羊飼い方式」ですね。トップが指揮命令をしなくても変化に対応できる継続可能な会社をつくるためには、優秀な人が自走できる環境を整え、細かい指示をせずにゴールを明確にすることに注力すべきです。

 さきほどご紹介したFacebook向けのAIチャットサービスは、開発ツールを無償提供するというFacebookの発表から、わずか2日で完成させました。それは、従業員のみんなが「テクノロジーで不動産取引を滑らかにする」というイタンジのビジョンを共有し、ユーザーとのインターフェースの重要性を理解しているからこそできたことであり、自然発生的に組織が変化に対応した事例とも言えます。

●P/LだけでなくB/Sで勝負する

―伊藤代表は企業を売る、事業を買うという両方の経験をお持ちですが、ベンチャー企業のM&Aに対して伊藤代表のように柔軟な考え方をされる経営者は少ないのではないでしょうか。
 確かに、日本では特に上場前のベンチャー企業の間でM&Aをするということはあまりないと思います。そもそもベンチャーへの投資案件数も米国と比べたら10分の1くらい。米国では大手に事業を売却した資金で新事業を立ち上げつつ、ほかのベンチャーにも投資するという流れもできています。ただ、日本でも3年ほど前から米国のようなベンチャーのM&Aも出始めています。

―伊藤代表ご自身、今後もM&Aをしようというお気持ちはありますか?
 はい、あります。もちろん、資金と良い案件があればの話ですが。P/L(損益計算書)をつくることも大事ですが、B/S(貸借対照表、バランスシート)で勝負するベンチャーがもっと増えてもいいのではと考えています。資本で事業や収益を生み出すという視点の重要性を理解すればビジネス拡大の打ち手は増えます。私自身、資本の力を駆使するという感覚は、ファイナンスMBAを取得しているというバックグラウンドや、不動産売買の経験によって培われてきたと思います。

―ここまでお話を聞いてくると、伊藤代表の行動原理やそのバックグラウンドにもとても興味が湧きます。その点についてもぜひお聞かせください。(続きを読む

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取材・編集:M&A Online編集部