原発停止による代替燃料のコストアップは年間3兆円ともいわれており、電力業界は苦境に立たされている。連載第3回は「電力業界とM&A」について、エネルギー産業の動向に詳しい東京理科大学橘川教授に話を伺った。

―電力業界の今後の見通しについてお聞かせください

 大津地方裁判所の運転差し止め決定により関西電力の高浜原子力発電所3・4号機が停止したことで少しスピードが遅くなると思いますが、もし運転が継続されていたら来年にも次のような話が出たかもしれません。それは、「関西電力による中国電力の買収」です。

-戦後の九電体制以降、M&Aはありませんでした。今回の電力自由化と関連はあるのですか?

 どういうことかといいますと、原発再稼動に対するさまざまな議論はありますが、既存の原発でつくる電気は間違いなく安いのです(編集部注:二度のオイルショックを教訓に石油の代替燃料の一つとして推進されたのが原子力である)。原発代替の火力発電は燃料コストが高く、電力会社の収益は悪化しています。ですから電力各社は必死になって原発を動かそうとしているのです。

図1 電源別発電コストの比較

経済産業省 資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会 2014年モデルプラント資産結果概要より一部抜粋 
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/006/pdf/006_05.pdf

-原発の再稼動に関する報道を目にする機会が増えています

 新聞によると一斉に再稼働するようなことを言っていますが、全然そうではなくて、去年は九州電力の川内原発(鹿児島県)の2基が動いただけでした。

 大津地裁の決定がなかったならば、今年は関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力の伊方原発(愛媛県)3号機、そして九州電力の玄海原発3、4号機(佐賀県)の計5基が動き出すのではないかというのが私の見立てでした。つまり、いずれにしても、再稼働にこぎつける電力会社とそうでない会社に分かれるだろうと見ています。

図2 再稼働が予想される原子力発電所

-安全審査申請中の16基のうち、合格したのは3原発7基(うち2基は追加審査中)です。進捗に差があるのはなぜですか

 今申し上げたのは、すべて加圧水型軽水炉(PWR)です。原発には主に2種類あり、東京電力などが保有する沸騰水型軽水炉(BWR)については、まだまだ再稼働は見通せません。早くても来年、場合によっては再来年と思われます。これが電力業者間の競争力の差となって表れてくるでしょう。

図3 国内で保有する主な原子炉

※日本原子力発電は、BWRとPWRそれぞれ1基を保有
※J-POWERは大間原発(青森県)を建設中
※★は震災後、原子力規制委員会の安全審査を経て再稼動した原発。
※●は震災後、原子力規制委員会の安全審査に合格した原発。関西電力の高浜原発1号機、2号機は今年7月までに機器の劣化がないことを証明する追加審査に合格する必要がある。3号機、4号機は大津地裁の運転差し止め決定により、再稼動後停止

-先日の熊本地震で原発の安全性が再び懸念されています。

 原子力規制委員会は、川内原発の運転には支障がないとの見方をとっています。現在大手電力会社の9社が原発を保有していますが、震災直後に原発が停止したため7社が電気料金を値上げしました。値上げを実施しなかったのは、中国電力と北陸電力だけです。

 この2社の共通点は何かというと、石炭火力に強いことにあります。北陸電力の主力は水力ですが、石炭火力も強いので、値上げをしないで踏みとどまりました。中国電力は石炭火力に強いうえ、最新鋭の原発を島根に持っています(3号機)。関西電力が中国電力を狙うというのは、かなり有力な見方でしょう。


図4 大手電力会社の東日本大震災前の状況

※売上高、従業員数: 2009年度
※原子力比率: 2010年度 発電電力量ベース。
電気事業連合会『電気事業の現状2011年』、『毎日新聞2012年5月5日付』などから作成。


-関西電力による中国電力の買収の可能性はどのくらいでしょうか

 関西電力は大津地裁の決定で目算は外れましたが、高浜原発3,4号機に次いで1,2号機も、原子力規制委員会から運転再開が認められる見込みです。

 東日本大震災後もいったん稼動していた大飯原発(福井県)3,4号機も再稼動の可能性が高く、来年度末までに計6基が動く可能性があります。その場合、業績は一気に好転し、他の地域に攻めやすくなります。そうなれば中部電力の大口顧客であるトヨタも取り込める可能性が出てきます。じつは今回の大津地裁の決定で一番ほっとしたのは中部電力だったかもしれません。

 再稼動が延期されたことで当面は影に隠れますが、関西電力は原発依存度が高く、電源多様化のリスク分散を当然考えています。投資余力が生まれ手元にキャッシュが戻ってきたら、東西(東:北陸電力、西:中国電力)との合併を考えるはずです。

-石炭火力に強い北陸電力を買収する可能性は?

 北陸電力は関西電力とは組まないでしょう。歴史的にみてもこれまでいかに関西電力から独立を保つかが課題でした。関西電力の黒部川第4発電所(黒四ダム)の立地を思い起こしてください。北陸地方の東側まで関西電力が進出しています。もし買収の声がかかったら、北陸電力は中部電力に助けを求めると思います。

-買収を阻止する可能性は?

 中国電力の側からすると、関西電力に買収されるのは面白くありませんから(規模の小さい)四国電力と合併するシナリオが考えられます。四国電力も原発に強く石炭火力に弱い会社ですから、石炭火力に強い中国電力との合併によるメリットは大きいでしょう。場合によっては九州電力も加えた日本海・瀬戸内海・太平洋の三海電力が誕生する可能性も、ゼロではありません。

 いずれにせよ、原発の再稼動のタイミングや石炭火力の取り込みが引き金となり、今後電力会社間での業界再編が起こると予想されます。(次回後編に続く

取材・編集:M&A Online編集部

【橘川武郎教授緊急インタビューを読む】
第1回 前編 石油業界の2つの統合は、「内向き型」と「外向き型」
第2回 後編 昭和シェル石油と出光興産の統合メリットとは
第3回 前編 電力自由化のキーマンは意外にも「ガス業界」
第4回 後編 電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから