中国企業による日本企業の買収事例2:鴻海(ホンハイ)グループのシャープ買収

中国企業のM&A戦略について、特に日本企業と関連する部分にスポットを当て紹介する。第2回は、中国に製造子会社フォックスコンを有する、台湾籍企業の鴻海精密工業グループ(以下、鴻海グループとする)によるシャープの買収を取り上げる。

総合電機メーカーのシャープ<6753>は、2016年8月、鴻海グループに対して約3,888億円の第三者割り当てによる新株式発行を行った。その結果、鴻海が筆頭株主となり、シャープは鴻海グループの子会社となった。

経営再建中だったシャープは、当初、産業革新機構からの出資を受けることを検討していたが、鴻海の出資額の方が大きかったため、最終的に鴻海グループと契約したと報じられた。

シャープを買収した理由とは?

この出資は、シャープから見れば再建支援だったのかもしれないが、鴻海側から見れば、シャープ買収には別の理由があった。それは、ここ数年の鴻海グループの成長の鈍化であり、シャープをその成長の起爆剤にしたいという考えであった。

鴻海は2012年に1330 億円(9.9%)出資し、シャープと資本業務提携をしたいと考えていた。この出資は、結局見送られることになり、液晶事業を行っていたシャープ堺工場の会社の一部株式を鴻海グループの郭台銘(かく・たいめい)会長個人の投資会社に譲渡するという結果で終わってしまう。

鴻海グループの郭会長は、2016年の買収交渉の際には、シャープ堺工場の資本参加を通じ「日本人と付き合うには信頼が大事だと分かってきた」と話しており、2012年の失敗を踏まえて交渉に臨んだことが、今回の買収を成功させたと言われている。

台湾企業の鴻海(ホンハイ)。急成長の要因はスピード経営

鴻海グループは、台湾に本社を構え、工場は主に中国にある。グループ全体の売上高は約15兆円、従業員数は約73万人と現在では、電子機器の生産を請け負う電子機器の受注生産(EMS;Electronics Manufacturing Service)で世界最大の企業グループとなっている。

今回シャープを買収したのは、鴻海グループの中核会社である1974年に台湾で設立された鴻海精密工業をはじめとするそのグループ傘下の会社である。

鴻海の強みは、郭会長自らが「鴻海が成長できた最大の要因はスピードだ」と語っているように、極度のトップダウン型による「即断即決」のスピード経営を行っていることである。また、交渉能力の高さでアップルなどの優良顧客を次々と獲得してきた。

  この「鴻海(ホンハイ)」という名前、あるいは「フォックスコン」という名前をシャープ買収の件で知ったという方も多いかもしれない。一般消費者に広く知られるような企業ではなかった鴻海だったが、2010年、一気にその名を知られるようになる。当時は、スマートフォンの部品、特にiPhone 部品の供給で急速に成長していた時期だった。

ホンハイ/フォックスコンHP 製品紹介ページより

相次ぐ従業員の自殺で一躍、有名企業に!?

鴻海グループは、1990年代より中国に進出し、生産拠点を主に中国大陸においている。2010年当時、中国大陸で最大の工場であった深センの龍華工場で、半年間の間に10人もの従業員が自殺したことが大きく報じられた。

この事件で、猛烈な勢いでユーザーを増やしていたiPhoneの製造現場の過酷な状況とともに、鴻海の名が世間に知れ渡ることになる。報道はその後、様々な波紋を呼ぶこととなり、製品の発注元であるアップルが「世界のサプライチェーンにおけるすべての労働者に配慮している」という趣旨の声明を発表するまでに至った。

その後、フォックスコンの中国工場は賃金がより安い場所を求めて、深センから中国の内陸部に移り、深セン工場は中国最大の工場ではなくなってしまった。しかし、従業員の自殺等の労働問題は、2010年以降も、現在に至るまでしばしば報じられている。

シャープはV字回復となるか?

シャープは鴻海グループ傘下になる前から希望退職募集等の人員整理をしており、経営再建を行ってきた。2016年に鴻海グループ傘下に入り1年が経過したが、業績も株価もV字回復した。鴻海グループのスピード経営が浸透した成果だと言われている。

このシャープV字回復の原動力になったのが、鴻海グループが買収前から一部業務提携し、注目してきた液晶パネル事業である。シャープは中国大陸等で鴻海が主導する液晶の大型投資で連携も行うようになっている。

シャープは今後、どこまで業績を伸ばしていくのか。今後も、鴻海グループ傘下のシャープに注目していきたい。

文:M&A Online編集部