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ユニゾHD「基本方針」で考える 従業員の雇用保障と「企業価値向上」概念

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企業価値の維持向上と雇用保障

以上のユニゾHDの基本方針とそれに基づく「仕組み」に関する提案をまとめると、以下のように特徴付けられると言える。

・買収提案者の完全子会社化が予定されているにもかかわらず、従業員持株管理会社を通じて従業員に極めて強力な経営判断に対する拒否権が付与されている(上記①及び②)。
・従業員の雇用及び待遇の保障がなされている(上記③)。
・買収提案者による買収のリターンについて、従業員に従業員持株管理会社を通じた大きなリターン分配と決定権限が付与されている(上記④、⑤及び⑥)。

このような対象会社従業員の権限と利益を極めて重視する要求は、一面では従業員支配の会社となるに実質的に等しいものであり、投資家から募ったリスクマネーを投入して企業に買収してリターン獲得を狙う投資ファンドにとっては、一般論としては受け入れが難しい内容のように思われる。

では、ユニゾHDのように企業価値の内容として「重要なステークホルダー」としての従業員の利益を重視することは妥当であろうか。

たしかに、コーポレートガバナンス・コード第2章において、従業員等のステークホルダーとの適切な協働に努めることが求められている。また、在り方指針においては、M&Aにおいて尊重されるべき原則として、企業価値の向上(第1原則)、公正な手続を通じた一般株主利益の確保(第2原則)が掲げられているところ、「企業価値の向上」の具体的な意味内容は明らかにされていない。そのため、ユニゾHDのように従業員の利益を重視する狭義の企業価値の捉え方も考え方としてはありうるように思われる。

しかし、重要なステークホルダーであり、企業の担い手である従業員の雇用を確保し、その利益を図ることは企業価値向上の手段として重要であったとしても、それをもって至上の価値とし、企業価値向上の内容そのものとして捉えることにはは疑問を感じる。

例えば、企業の業績や財務状態が悪化している等の状況によっては、従業員のモチベーションを不当に害さない範囲での適切なリストラクチャリングを実施した方が企業の業績、財務状態回復にとっては望ましい場合もあるであろう。雇用の維持とそれを確保する仕組みをもって企業価値の維持向上にとって不可欠の要素とすることによって、かえって対象会社の業績が下落する、又は中長期的な成長が害される可能性はないだろうか。

また、投資ファンドによるバイアウトは、完全子会社化して所有と経営を一致させることによって、(上場したままでは難しい)積極的なリスクテイクを行い、それをもってバリューアップを狙う取引と言えるが、経営責任を持たない従業員にマイノリティ持分を取得させるにとどまらず、経営とエグジットを含むリターンの意思決定に介入させることは、バイアウトの社会的・経済的意義が損なわれてしまうのではないだろうか。

特別委員会における議論

ユニゾHDのプレスリリースにおいては、同社内における基本方針の決定に至るプロセスが明らかにされていない。特に、社外取締役5名で構成される特別委員会が基本方針策定に際して何らかの関与をした形跡が伺われない。また、特別委員会の買収提案者らによる買収提案に関する答申書では、基本方針及びそれに基づく「仕組み」自体の妥当性については特に検討されておらず、特別委員会は基本方針の内容を所与の前提として買収提案の検討を行っているように読める。

基本方針とそれに基づく仕組みの内容は上記のようにステークホルダーである従業員の利益を過度に重視したものである疑いがあるといえ、これに沿って買収提案の当否を判断することは、会社にとって「望ましい買収」までも閉ざすことにならないか。

在り方指針(3.4.5 注70)も、「いずれの買収提案が対象会社の企業価値の向上により資するかについては慎重な判断が求められ、企業価値の概念を恣意的に拡大することにより、このような判断を不明確にすることは望ましくない。」としている。

「企業価値の維持向上」という概念は多義的である以上、十分な議論を含む適切なプロセスが図られるべきであったように思われる。

最後に

在り方指針は、M&Aにおいて尊重されるべき原則として、一般株主利益の確保(第2原則)だけでなく、企業価値の向上(第1原則)も同時に求めている。そして、企業価値向上に資する買収提案と、一般株主が享受する利益(買収対価)がより大きい買収提案は、一致しないことがありうる(在り方指針3.4.4)。

このように企業価値の維持向上概念が多義的であること、また、望ましいM&Aの在り方として、買収対価だけでなく買収後の企業価値向上も求められている以上、両者の利益の調整はときとして難しい課題となる。

本件では対象会社がM&A対応に関する基本方針を策定し、その中で自社の考える企業価値の維持向上の内容を示すという実務上珍しい手続が取られた事案であるため、必ずしも一般化できるものではないが、企業価値向上概念の捉え方は、そのM&Aのプロセスにおいて、買収候補者選定及び意見表明の重要な要素となる以上、対象会社の特別委員会や取締役会において十分な議論を重ね、かつその意見形成過程の開示を通じて投資家に対して理解を求めるべきであろう。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

参考URL
ユニゾホールディングス「当社への買収提案に対する対応の基本方針」9月27日付プレスリリース
経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する指針」

柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録

取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/


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