最近、上場子会社に再び注目が集まっている。例えば、現在、経済産業省「公正なM&Aの在り方に関する研究会」において、MBO指針の見直しが検討されているところ、従来からのMBO取引に限らず、「支配株主による従属会社の買収」(典型的には親会社による上場子会社の完全子会社化)も検討対象に含めることで議論されている。

また、同じく経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システム研究会」において、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(仮称)の策定が検討されているところ、同実務指針では、「上場子会社の在り方」も論点に組み入れられている。

上場維持案件

ところで、上場会社が対象会社となるM&A取引というと、公開買付けとスクイーズアウトの二段階取引による完全子会社化取引、株式交換による完全子会社化取引、共同株式移転による経営統合など、非公開化を伴う取引が注目されやすく、法律家の間の議論でも、MBOなど非公開化を伴う取引に議論の焦点が当てられやすい。これは、MBOにおける深刻な利益相反など重要な法的問題を多く含み、また、少数株主から価格決定申立てがなされることを中心として、法的紛争となりやすいからであろう。

もっとも、実際には、買付け予定株式数に50%超程度の上限を設けることにより、対象会社を子会社化しつつ、公開買付け実施後も対象会社の上場を維持させる公開買付け(以下「上場維持案件」という。)も、公開買付けの相当の割合を占めている。しかし、このような上場維持案件は案件数が多いにもかかわらず、その法的な問題点については筆者の知る限りあまり公に議論されていない。そこで今回は、上場維持案件において、対象会社経営陣が求められる行動規範(求められる行動)について検討してみたい。

特徴①  シナジー獲得が重要

上場維持案件では、公開買付後も少数株主が対象会社株主として残ることとなる。そこで、対象会社経営陣としては、公開買付者が親会社となることによって、対象会社がシナジーを獲得して、少数株主もこれを享受することができるか批判的に検討した上で、対象会社ひいては少数株主の利益となるよう、公開買付者と交渉して、最終的には意見表明報告書及びプレスリリースにより市場に現経営陣の意見を開示することが、最も重要な役割となる。そのため、上場維持案件では、シナジーを確実に実現するため、対象会社と公開買付者が資本業務提携契約を締結することも少なくない。

これに対して、公開買付価格については、上場維持案件では少数株主は株主として残ることも選択できるので、少数株主が対象会社株主の地位から必ず退出することとなるため、公開買付価格の公正性が極めて重要な要素となる完全子会社化取引ほどは重要視されない(上場維持案件では、大株主間の株式の移動だけを目的として、市場価格より低い金額を公開買付価格とするいわゆるディスカウントTOBが行われることも珍しくない)。

特徴②  上場維持する理由の整理

一方で、上場維持案件では公開買付け後の対象会社は子会社といえども上場を維持するため、親会社からの独立性が一定程度求められ、親子会社間の取引であっても、独立当事者間の取引条件を基本的に維持しなければならない。そうすると、シナジー獲得のために柔軟な連携を取ることが困難となり、結局はシナジーの創出も限定的となる場合が出てくる。

実際、上場を維持して子会社化したわずか数年後に、完全子会社化した方がよりシナジーが実現できるとして、完全子会社化している事例もしばしば見かける。そこで、上場維持案件では、対象会社経営陣としては、シナジー獲得の必要性のみならず、親会社傘下となりつつ、上場を維持し、一定の独立を保っていくことの必要性がどこにあるのか、上場子会社であることによる親会社と少数株主との間の利益相反の問題点よりも上場を維持した方が、メリットがあると言えるのかどうか、十分な検討が必要となる。

このような上場を維持することの積極的な理由については、東証の事前相談担当者からも説明が求められることがある。