1.はじめに

製薬企業によるベンチャー企業への事業のカーブアウトが広まっているという。

「研究断念、ベンチャーに継承 製薬大手に広まる『カーブアウト』」
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ここでいうカーブアウトとは、事業売却全般を指すのではなく、ある企業(母体企業)の有するノンコア事業をベンチャー企業に移転させ、独立させることを特に指している。当該事業に関与していた母体企業の役職員が当該ベンチャー企業に転籍して、その経営に参画し、引き続き事業を担うことが多い。

2.カーブアウトのメリット

カーブアウトのメリットとしては、主に以下のような点があげられるだろう。

・母体企業としては、ノンコア事業を切り離すことによって、事業の選択と集中を図ることができる。
・母体企業としては、自社では十分に活用できない技術や人材の積極活用を図ることができる。
・ベンチャー企業及びその役職員としては、独立することにより母体企業では継続することが難しかった事業を、特許権等の資産を引き継ぐことによって継続することができる。
・ベンチャー企業としては、ベンチャーキャピタル(VC)などの外部投資家から出資を募ることにより、今後の研究開発を行うために必要となる資金調達を行うことができる。
・母体企業が承継対象事業の対価としてベンチャー企業の発行する株式の割当てを受けるのであれば、IPOやM&Aによる将来のキャピタルゲインを期待できる。

3.カーブアウトの問題点

もっとも、カーブアウトは、創業者が1から始めるベンチャービジネスと異なり、母体企業から特許権等の承継対象資産の承継を受けて行うものであることに伴い、問題点もある。

すなわち、母体企業としては、対象事業について自社で成長させる見込みがないとはいえ、これまで研究開発の労力を注いできた対象事業に属する特許権を含む自社技術(対象技術)をグループ外の独立の企業に移転させる経済合理性があるかどうか、十分に検証しなければならない。

この点、たしかに対象事業を有償で承継させるとしても、本稿でいう意味のカーブアウトでは、対象事業は確立したものではなく、研究開発の継続を断念し、そもそも事業化すらしていない事業が対象となっていることが多いため、その結果、例えば特許権の簿価相当額など、極めて低いバリュエーションしか付けられないことも多いと思われるところ、そのような廉価で気前よく渡してしまって良いかが議論となりうる。

上記のようにカーブアウトのメリットとしては、将来のIPOやM&Aによるキャピタルゲインの期待もあるが、VC等の純投資家と異なり、多くの事業会社ではキャピタルゲインの獲得そのものをプロジェクトの目的とすることは難しく、カーブアウトを実施する以上は、やはりなんらかの戦略目的の達成が必要となることが多いと言える。これは、いわゆるコーポレートベンチャーキャピタルの多くも戦略目的達成を目的としているところが少なくないことと同様といえる。

そうすると母体企業としては、カーブアウトを行った戦略目的を達成又は保全するために、対象技術を拠出した実質的な見返りとして、ベンチャー企業の経営に対して一定程度の関与をしておきたいと考える。

関与の在り方としては、例えば、ベンチャー企業との間で資本業務提携契約を締結して、ベンチャー企業が首尾よく対象事業を事業化できた際の果実を得られるようにする、母体企業の競合他社によるベンチャー企業への資本参加を制限する、対象事業の買戻特約を付する、ベンチャー企業株式のコールオプションを求める、などが考えられる。

一方で、このような母体企業のいわば「紐付き」の事業では、母体企業によるベンチャー企業に対する過度の経営介入とも評価されかねず、創業者の経営の自由度が十分でないとして、VC等の機関投資家からの資金調達に支障が生じる可能性がある。

また、ベンチャー企業設立当初から母体企業の影響力が強いと、他の事業会社(特に母体企業の同業他社)が投資を避ける可能性も考えられる。そのため、カーブアウト関連契約交渉においては、母体企業による関与の要請に対して、ベンチャー企業が反発する可能性も出てくる。

4.おわりに

このように、カーブアウトでは、メリットも認められる一方で、母体企業の戦略目的達成と、ベンチャー企業の資金調達を含む今後の成長とが、トレードオフの関係にあるという側面がある。そのため、母体企業の利益とベンチャー企業の利益(これには、現在と将来の投資家及び投資家候補者の利益も含まれるであろう。)双方の適切な調和を図るために、母体企業、ベンチャー企業及び直近の投資家候補との間で十分な協議、交渉を行う必要があるだろう。

文:柴田 堅太郎(弁護士)