企業法務弁護士が語る「法務デュー・ディリジェンスの限界」
大企業が買収した子会社で何らかの不祥事が起きたことが報道されると、法務デュー・ディリジェンス(買収監査)ではいったい何を見ていたのかと批判されることがある。
M&A: MAEの発生等による合併契約の終了を認めたデラウェア州裁判例(Akorn v. Fresenius 判決)
M&A契約においては、契約締結からクロージングまでの間に買収の対象となる会社の事業に「重大な悪影響」(Material Adverse Effect (MAE))が生じていないことをクロージングの前提条件とする「前提条件条項」や、表明保証違反によりMAEが生じたことを理由とした「解除条項」が規定されることがあります。
2018年10月1日、デラウェア州裁判所は、かかる前提条件条項及び解除条項が規定された合併契約(ドイツの製薬会社 Fresenius Kabi AG (「Fresenius社」)の子会社を合併消滅会社、アメリカのジェネリック医薬品製薬会社 Akorn,Inc.(「Akorn社」)を合併存続会社とする合併契約)において、いずれの条項との関係でもMAE を認定し、買収者たるFresenius社には、クロージングの拒否及び合併契約の解除が認められる旨判示しました(「本件裁判例」)。
まず、本件裁判例は、前提条件条項との関係で、MAEの有無は、「商業上合理的な期間(数ヶ月ではなく数年)にわたって対象会社の長期的な収益に影響を生じさせるか」が重要な考慮要素であると判示しました。その上で、本件裁判例は、合併契約締結後のAkorn社は、前事業年度の同一四半期と比較して、売上が29%、29%、34%、27%、営業利益が84%、89%、292%、134%、それぞれ減少していること等から、Akorn社にMAE が生じたと判断し、Fresenius社によるクロージングの拒否を認めました。
さらに、本件裁判例は、解除条項との関係で、Fresenius社によって主張されたFDA関連規制等に関する重大なコンプライアンス違反について、①ジェネリック医薬品製薬会社であるAkorn社にとってFDA関連規制の遵守は重要であること、②Akorn社の企業価値は、当該コンプライアンス違反によって約9億米ドル減少すると予想されることを認定しました。本件裁判例は、このような定性的・定量的検討を踏まえ、Akorn社の表明保証違反に該当する当該コンプライアンス違反は、Akorn社にMAEを生じさせると合理的に予想されると判断し、Fresenius社による合併契約の解除を認めました。
本件裁判例はデラウェア州法を準拠法とする契約の解釈に関するものではあるものの、日本のM&A契約実務にも影響を及ぼす可能性があります。
パートナー 大石 篤史
アソシエイト 足立 悠馬
大企業が買収した子会社で何らかの不祥事が起きたことが報道されると、法務デュー・ディリジェンス(買収監査)ではいったい何を見ていたのかと批判されることがある。
「中小企業買収の法務ー事業承継型M&A/ベンチャー企業M&A」の著者である柴田堅太郎弁護士が、M&Aの現場で感じたことを思うままに綴るコラムです。今回は中小オーナー企業のM&A準備について
会社を譲渡するにあたり、情報漏えいは会社の存続に関わるといっても過言ではありません。M&Aを進める際には、売り手と買い手の間で「秘密保持契約」を締結します。