金融庁が本年3月に改訂コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とともに、その附属文書として策定・公表した「投資家と企業の対話ガイドライン」では、上場企業に「経営戦略・経営計画等の下、事業を取り巻く経営環境や事業等のリスクを的確に把握し、新規事業への投資や既存事業からの撤退・売却を含む事業ポートフォリオの組替えなど、果断な経営判断」(下線は筆者による)が求められている。

参考リンク
・改訂CGコード(東京証券取引所)
投資家と企業の対話ガイドライン(金融庁)

極めて難しい「カーブアウトM&A」

この「果断な経営判断」という一節は、今回のCGコード改訂の中核とも言える。そこで、上場企業としては同ガイドラインの趣旨を踏まえ、不採算事業についてはこれまで以上に積極的な売却を推進していく必要がある。

しかし、少なからぬ日本の伝統的企業にとって、このような事業売却は、(対象となる事業がかつて隆盛を誇り、その会社の花形であればあるほど)苦手とするところである。しかも、このような企業の一部の事業を売買するM&A取引(このようなM&A取引類型を「カーブアウトM&A」という。)は、法務の観点からも極めて難しい問題点を含んでおり、通常の株式譲渡取引に比較すると、当事者間で激しい交渉が行われることが少なくない。

内在する「スタンドアロンイシュー」

それは、カーブアウトM&Aには、「企業から切り出された事業は買い手のもとで単独では運営できない」という「スタンドアロンイシュー」と呼ばれるリスクが内在することに起因する。

スタンドアロンイシューの中でも交渉上最も問題となりやすいのは特許権などの知的財産権である。頻繁に生じる交渉上の争点としては、売り手としては、譲渡対象を構成する特許権については売却対象の事業部門が直接所管する特許権のみとすることを求めるのに対して、買い手としては、スタンドアロンイシューを回避するために、当該部門が所管しているかどうかにかかわらず、およそ当該事業に必要なすべての特許権を譲渡対象とするか、譲渡対象としないまでもライセンスの対象とすることを望む。

そうしなければ、買い手としては事業を譲り受けた後も常に特許権侵害を主張されるリスクに晒され、安心して事業を遂行できないからである。しかし、売り手の立場からは、売却対象の事業部門が所管しない特許権も事業売却の俎上に乗せることは、その特許権を所管する他の事業部門をも巻き込むことを意味し、組織における権限分配上不都合な問題を生じるばかりか(そのため、カーブアウトM&Aでは大組織内部の生々しい問題に直面することもしばしばである。)、何よりも売却対象でない他事業にも悪影響を及ぼしかねないため、このような買い手の要求に対して激しく抵抗するのである。