個人投資家にとって、M&A(企業の合併や買収)は関係がないと思っていても、上場株式を保有していれば、M&Aや組織再編を目的とした公開買付の対象となる可能性があります。ここでは、株式公開買付け(TOB)とはどのようなものなのか、もし保有株式が対象になった場合にどのように対応すれば良いのかを見ていきます。

TOB(株式公開買付け)とは

株式公開買付け(Take Over Bid;TOB ティーオービー)とは、公開企業の支配権や経営権を取得したり強化したりする目的で、市場外で対象の株式を短期間に大量に買い付けることをいいます。

TOBを利用することで、株式を買い集めたい側は、次のようなメリットがあります。一つは「株式を一度に買い集めることができる」点です。市場で株式を買い集めようとしても、十分な取引量がなければ、一度に大量の株式を手に入れることはできません。しかしTOBなら、経営権取得のために効率的に株式を買い集めることができます。

もう一つは、「決めた金額で株式を買い集められる」というメリットです。市場で株式を大量に買い集めると、通常、株価が上昇し、買収にどれだけの金額が必要となるかわかりません。TOBでは決められた価格により市場外で購入していくので、買収に必要な金額を把握しやすいのです。

個人投資家がTOBに遭遇したら・・・

上場企業の株式を保有していれば、個人投資家も株式公開買付に遭遇することもあり得ます。では、保有する株式が公開買付の対象になったら、どうすればいいのでしょうか。

「公開買付に応じる」「市場で売却する」「保有し続ける」の3パターンをそれぞれみていきましょう。

1.公開買付に「応じる」場合

全てではありませんが、TOBの多くは市場価格より高い価格で公開買付がなされます。また、TOBは売買手数料が無料で売却できるチャンスでもあります。そのため購入時の価格よりも高く、かつ市場価格よりも高く買い取ってくれるのであれば、公開買付に応じるメリットは大きいでしょう。

少額投資非課税制度(NISA)で保有している株式がTOBの対象となった場合も、応募可能です。ただし、株式累積投資(るいとう)で単元株に達していない場合は、TOBに応募する資格がありません。

「A社の株式を1株200円で購入します」と公開買付価格が発表されたとしましょう。もし、持っているA社の株式が100円で購入したものなら、TOBに応じてもいいと感じるかもしれませんが、少々複雑な手続きが必要です。

TOBに応じる場合の手数料は?

TOBの申込手数料は通常かかりませんが、TOBに申込むためには、公開買付の代理人となっている証券会社に口座を開設し、株式を移管する手続きが必要です。証券会社によっては、移管手数料が発生する場合があります。

また、株式の売却代金を銀行口座に振込むための手数料がかかる証券会社もあります。ただし、多くの代理証券会社ではTOBにかかる各種の手数料を無料にするなど優遇しているケースが見られます。

手数料の面では優遇されることが多いTOBですが、課税面では通常の取引と変わりはなく、申告分離課税が適用されます。また、特定口座で保有している株式の場合、移換先にも取得価額が引き継がれて損益が計算されます。

〇主な買付代理人(証券会社)の手数料-各社ホームページより

証券会社名公開買付の応募に係る手数料他社→当社への移管手数料(入庫)当社→他社への移管手数料(出庫)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 かからない※かからない かかる場合あり
SMBC日興証券 かからない※かからない かからない(当社で負担)
みずほ証券 かからない(口座管理料も不要) かからない かかる場合あり
野村證券 かからない かかる場合あり かからない
カブドットコム証券 かからない(口座管理料も不要) かからない かからない
三田証券 かからない かかる場合あり (記載なし)

※三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券は、TOBで生じた売却代金の振込手数料も無料

次は、市場で売却する場合や、保有し続ける場合のメリット・デメリットを考えてみましょう。

2.市場で「売却する」場合

TOBに応じる手間を避けたいのであれば、市場で売却することも検討できます。

市場の取引価格が150円の株式でも、公開買付で「1株200円で購入する」と公表されれば、市場価格は上昇し、多くの場合、買付価格の200円に近い価格で推移するようになります。

市場で売却すれば、売買手数料もかかり200円よりも低い価格で売却することになるかもしれませんが、TOBに応じる手間を省いて、手軽に株式を手放すことができます。

3.「保有し続ける」場合

もちろん、保有株式がTOBの対象となった場合に何もせず当該株式を保有し続けることもできます。

A社の株式を100円で購入したのであれば、200円でTOBに応じるか、市場で売却するかで、十分な利益が得られるでしょう。

しかし、A社の株式が300円で購入したものであればどうでしょう。200円程度では手放したくないと感じるのではないでしょうか。そのような場合は、引き続き株式を保有し続けるという選択もあります。

ただし保有し続ける場合は、次の点に注意が必要です。

まず、TOBの完了後に上場廃止が計画されていることもあります。保有株式が上場廃止となると、換金性が著しく悪くなるため、個人投資家が保有し続けるのは現実的ではないかもしれません。公開買付届出書には上場廃止の可能性の有無が記載されていますので、必ずチェックするようにしましょう。

また、TOBの後に買付者がわたしたちの保有する株式を強制的に取得することもできます(これを「二段階買付」といいます)。このような場合、保有し続けたいと考えていても、現金と引き換えに強制的に株式を手放さなくてはなりません。

総合的な判断を

いざTOBに遭遇すると、迷ってしまうかもしれません。投資家ごとに購入価格も違いますし、考え方も違うからです。買付価格だけでなく、上場廃止や株式強制取得の有無などを総合的に考慮し対応していくことも大切です。

文:M&A Online編集部

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