M&A:買収防衛のための弁護士報酬の支払いについて、善管注意義務違反を否定した裁判例(東京高判平成30年5月9日)

 東京地裁は、2017年11月22日、支配権が争われていた X株式会社(JASDAQ上場)が、買収防衛のために複数の法律事務所に法律事務を委任し報酬を支払った行為について、当該行為をXを代表して行ったXの元代表取締役Y(支配権争いの結果解任)の善管注意義務違反を認め、XのYに対する損害賠償請求を認容しましたが、東京高裁は、2018年5月9日、上記原判決を取り消し、XのYに対する請求を棄却する判決を言い渡しました。
 東京高裁は、①旧経営陣であるYらと経営権を争った株主Aのグループ企業が、Xの事業存続に不可欠な資産について競売の申立てを行った結果、Xの対外的な信用が毀損されたことに関し、AがXの対応を批判する等していたこと、②Aらを実質的に支配する人物は反社会的勢力との接点もささやかれていた人物であること、③Yは、買収防衛のために複数の法律事務所に法律事務を委任した時点で、これらの事実を認識していたこと等を認定し、このような事実関係の下で、Yが買収防衛策を講じようとしたことには相当の理由があると判示しました。
 その上で、東京高裁は、上記経営権争いにおいては、風説の流布やインサイダー取引等の金商法違反の有無等複雑な法的論点が多数存在していたことを認め、これらの事項に関し、各法律事務所に買収防衛の観点から法律事務を委任したことは、当時のXにとって必要かつ有益なものであり、その対価役務も提供されていると判示し、経営陣交代後の経営陣から見て結果的に無駄な費用となるのは、いわば経営陣の変更に伴う不可避的な事象に過ぎないとして、Yの善管注意義務違反を否定しました。
 本判決は、Xの上告受理申立てにより、いまだ確定していませんが、買収防衛に伴う法律事務所への報酬の支払いの善管注意義務違反の有無という珍しい判断を下した裁判例として、実務上の重要性は小さくないものと思われます。

パートナー 大石 篤史
アソシエイト 足立 悠馬

森・濱田松本法律事務所 Client Alert 2019年4月号 vol.64より転載