法務デュー・ディリジェンスにおけるコンプライアンス調査

大企業が買収した子会社で何らかの不祥事が起きたことが報道されると、買収時の法務デュー・ディリジェンス(法務DD)ではいったい何を見ていたのか、適切な法務DDを行っていなかったのではないか、と批判されることがある。

たしかに、企業における様々なリスクの中でも、表示偽装、談合・カルテルといったコンプライアンスリスクは、ときとして企業存続の危機も招きかねない深刻なものがあり、買手企業としては事前にそのリスクの有無とインパクトを確認しておきたいところである。

しかし、法務DDとコンプライアンスリスクが有する以下のような特徴から、法務DDにおけるコンプライアンスリスクの調査には限界があり、発見することが難しい場合が多い。

(1) 法務DDの特徴から来る限界

①任意での実施当然のことではあるが、法務DDは任意で実施され、対象会社から強制的にコンプライアンス違反に関する情報を取得することはできない。
②時間的・予算的制約M&A取引のために実施されることから、時間的、予算的な制約があり、網羅的な法令遵守状況の確認は難しい。例えば金融機関では、対象会社に適用される金融規制法令が多数あるが、その遵守状況を(あたかも金融検査のごとく)数日をかけて網羅的にチェックすることは現実的ではないといえる。


(2) コンプライアンス上の問題の特徴から来る限界

①認識可能性コンプライアンス上の問題は対象会社内のどこで発生しているかわからないため、対象会社のDD対応担当者が認識しているとは限らない。そのため、対象会社のDD担当者が認識しているリスクか、法務DDを担当する弁護士が開示情報から検知できるリスク(例えば対象会社のビジネスモデルに内在しており、外部からでも分析可能な法令違反など)しか発見することはできない。
②構造的な問題不祥事発生時の第三者調査委員会報告書においては、不祥事の原因として、閉鎖的な組織風土、過剰な売上重視、内部通報制度の機能不全など、法令違反そのものの背後に存在する対象会社組織の構造的な問題が頻繁に指摘される。これらの構造的な問題については、不祥事という有事の中で実施される第三者調査委員会による調査であれば発見し、指摘することが可能であっても、平時に調査、指摘することは難しい。法務DDにおいて重大な法令違反が発見されたわけでもないのにそのような組織風土の問題まで探ろうとすれば、少なくとも現在の実務では買手企業とその法務アドバイザーは売主と対象会社から強い非難を受けるであろう。

そのため、多くのM&A取引においては、(i)まず法務DDのプロセスでは、コンプライアンスリスクについて、インタビューにおいて、対象会社にコンプライアンス問題の有無の認識を尋ね、その回答内容を分析することをもって完了させる(もっとも、実際には特に問題の認識がないという回答がなされることが多い)。そして、(ii)その後の株式譲渡契約書などの最終契約交渉プロセスにおいて、コンプライアンス上の問題があればそれについての治癒ないし特別補償を求め、かつ、法務DD実施の限界を補完するため、売主に対して対象会社に法令違反がないことの表明保証責任を課すにとどめていることが実態ではないだろうか。