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M&Aを実施すると必ず売上高は増加するのか?しっかり学ぶM&A基礎講座(62)
昨年来、日本企業による大型買収が目立ちました。M&Aを実施すれば必ず売上高が増加すると考えるのは早計といえるかもしれません。今回はM&Aと売上高の関係について考えてみることにしましょう。
東証適時開示ベースで、2019年第1四半期(1~3月期)のM&Aは前年同期比49件増の221件となり、18年7~9月期から3四半期連続で200件を超えた。200件超えが3四半期続くのは過去10年で初めて。また、第1四半期として09年の255件以来の高水準を記録した。
国内市場が人口減や少子化などで縮小に向かう中、シェア拡大や新分野進出、海外事業展開などの手段としてM&Aが活発化していることが鮮明になっている。
東証の適時開示は上場企業に義務付けられた「重要な会社情報の開示」のこと。このうち経営権の異動を伴うM&A案件(グループ内再編を除く)についてM&A online編集部が集計した。
2019年1~3月期のM&A開示件数221件の内訳は買収191件、売却30件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。日本企業による海外企業買収は36件(前年同期22件)、取得金額10億円超の買収案件は43件(同35件)だった。
2009年~18年までの10年間で四半期ベースのM&A が200件を超えたのは6度あり、最多は09年1~3月の255件で、これに続くのが18年10~12月期の232件、同7~9月期の222件。今回の19年1~3月期と合わせて、過去10年で初めて3四半期連続で200件を上回った。昨年後半からM&Aのうねりが従来以上に勢いを増してきたことがデータからうかがえる。
◎M&A:四半期ごとの推移(金額は公表分のみ)
四半期 | M&A総数 | 海外買収 | 10億円超買収 |
---|---|---|---|
2019年 | |||
1~3月 | 221件 | 36件 | 43件 |
2018年 | |||
10~12月 | 232件 | 37件 | 38件 |
7~9月 | 222件 | 42件 | 52件 |
4~6月 | 155件 | 25件 | 31件 |
1~3月 | 172件 | 22件 | 35件 |
1~3月期で1000億円を超える大型M&Aは2件。
第一生命保険ホールディングスは米生保のグレートウェストが保有する個人保険と年金の既存契約(ブロック)を再保険形式により1300億円で買収すると発表した。6月中の買収完了を予定する。
ブリヂストンはオランダの車両管理サービス会社、トムトムテレマティクスを1138億円で買収することを決めた。1000億円超のM&Aは2007年に更生タイヤ大手の米バンダグを約1200億円で子会社化して以来だ。
100億円超でみると、第一生命、ブリヂストンを含めて13件あったが、8件は海外企業買収。タダノは米テレックスコーポレーションがドイツで展開する「Demag(デマグ)」ブランドのクレーン事業を236億円で買収することを決めた。同社にとっては初の本格的な海外M&Aとなる。
◎1~3月期:買収金額上位10件
1 | 第一生命HD、米生保グレートウェストの既存契約を買収(約1300億円) |
2 | ブリヂストン、オランダの車両管理サービス会社トムトムテレマティクスを買収(1138億円) |
3 | 富士フイルムHD、米バイオ医薬品大手バイオジェンの製造子会社を買収(約990億円) |
4 | 日清製粉グループ本社、豪州の製粉会社アライド・ピクナルを買収(470億円) |
5 | 太陽ホールディングス、第一三共プロファーマの高槻工場を買収(376億円) |
6 | アサヒグループHD、英フラー・スミス&ターナーのビール・サイダー事業を買収(374億円) |
7 | 栗田工業、水処理薬品・装置メーカーの米Global Water Service Holdingを買収(301億円) |
8 | エヌ・デーソフトウェア、投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズと組んでMBO実施(299億円) |
9 | タダノ、米テレックスコーポレーション傘下の「Demag」ブランドのクレーン事業を買収(236億円) |
10 | 大正製薬HD、ベトナムの医薬品会社Duoc Hau Giang Pharmaceuticalを買収(160億円) |
企業別で開示件数が最も多かったのはソフトウエアテスト事業を主力とするSHIFTの4件。その顔ぶれはWebサイト企画のさうなし(東京)、Webマーケティングのアッション(東京)、システムコンサルティングのシステムアイ(横浜市)、ソーシャルゲーム運営のSHIFT PLUS(高知市)。
3件はパートナーエージェント、ソフィアホールディングス(その後に中止1件を含む)、電通の3社。
ブライダル事業を手がけるパートナーエージェントは、挙式・披露宴「スマ婚」運営のメイション(東京)を子会社化したほか、シニア―ライフ(東京)から結婚相談所「マリックス」の一部事業、STRACT(東京)からデートアプリ「dately」事業をそれぞれ取得した。
2件は16社あり(表を参照)、このうちDeNA、はるやまホールディングスの場合、2件がいずれも譲渡案件。DeNAは電子商取引の収納代行を行う子会社のペイジェント(東京)をNTTデータに約63億円で売却した。紳士服専門チェーンのはるやまHDは事業の選択と集中の一環として、衣料品販売子会社と女性用カジュアル衣料事業を手放した。
◎企業別:M&A件数
社名 | |
---|---|
4件 | SHIFT |
3件 | ソフィアホールディングス(中止案件1件を含む)、パートナーエージェント、電通 |
2件 | DeNA(いずれも売却)、EMシステムズ、KeyHolder、Orchestra Holdings、ウィルグループ、ウェルス・マネジメント、エン・ジャパン、幸和製作所、ジャックス、大興電子通信、 |
〃 | トーカイ、トライアンフコーポレーション、日清製粉グループ本社、はるやまホールディングス(いずれも売却)、ヒビノ、ワールド(うち1件売却) |
文:M&A online編集部
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昨年来、日本企業による大型買収が目立ちました。M&Aを実施すれば必ず売上高が増加すると考えるのは早計といえるかもしれません。今回はM&Aと売上高の関係について考えてみることにしましょう。