2019年3月、東京・JR「錦糸町」駅前に、かつてセゾングループの一員であり、現在はJ.フロントリテイリング系のパルコ、「錦糸町PARCO」がオープンした。ファッションビルのパルコとともに、ロフト、タワーレコード、西松屋、島村楽器、無印良品、ABCクッキングスタジオなどのテナントが入り、活況を呈している。
その錦糸町PARCOの入っているビルの名称がユニークだ。「楽天地ビル」。一見とぼけたようなビル名だが、その楽天地ビルの賃貸事業を行っているのは株式会社東京楽天地<8842>という東証1部上場企業である。ビル名とともに、社名もクスッと笑えるような、えもいわれぬ趣がある。
東京楽天地の社歴は古く、創業80年を超える。1937年、資本金100万円で江東楽天地として設立。江東劇場や本所映画館を開場し、1949年に株式を東京証券取引所に上場した。
以後の成長ぶりは下表のとおり(以下、表は東京楽天地ホームページ「沿革」をもとに加工)。
1952年 | 東京・浅草に進出し、劇場2館を開場 |
1953年 | 不動産事業を展開するため錦糸興業を設立 |
1960年 | サウナ事業展開のため泉興業を設立し、さらに錦糸町ステーションビルを設立する |
1961年 | 東京楽天地に社名を変更。同年、ビルメンテナンス業の拠点として錦美舎を設立 |
1963年 | スポーツ娯楽事業展開のため楽天地スポーツを設立 |
1964年 | 楽天地ボーリングを開場 |
1967年 | 現在の錦糸町場外馬券売場(ウインズ錦糸町)がある楽天地ダービービルを竣工 |
東京楽天地の快進撃は止まらない。さらにグループの拡大は下表のように続く。
1969年 | 楽天地スポーツを楽天地スポーツセンターに社名変更し、楽天地浅草ボウルを開場 |
1975年 | 飲食物販事業を展開するため楽天地パブを設立、1981年に東証1部上場を果たす |
1986年 | 楽天地ビルを竣工 |
1991年 | 楽天地パブを楽天地ステラに社名変更し、広告代理店事業の展開のためアルフィクスを設立 |
1992年 | 錦美舎が楽天地セルビスに社名変更し、2005年には楽天地天然温泉「法典の湯」 (千葉県市川市)を開場 |
2006年 | TOHOシネマズ錦糸町(現TOHOシネマズ錦糸町オリナス)をオープンし、以後、 西葛西ビル、北新宿ビル、六本木ビルを取得していく |
拡大から集約に転換したのは2010年前後のことだろう。下表のように、2010年代に入り、グループ内の吸収合併というかたちでM&Aを続けていく。
2011年 | 泉興業が楽天地スポーツセンターを吸収合併して楽天地オアシスに社名を変更。さらに、 楽天地セルビスが錦糸興業を吸収合併 |
2012年 | 東京楽天地が関連の楽天地建物を吸収合併し、楽天地セルビスがアルフィクスを吸収合併 |
このように集約を重ねた東京楽天地が、満を持して新たな施策で打って出たのが2014年のこと。「まるごとにっぽん」という株式会社を設立し、最近では2019年に楽天地オアシスが楽天地ステラを吸収合併する。
事業内容や対象が娯楽だけに、一見ほのぼのとした“身内筋”のM&Aに見えるが、おそらく東京楽天地は、めざすべき楽天地を求めて、アメーバのように拡大と収縮を繰り返してきたのだろう。