前回連載まで、「PMIの10の活動」のうち、「(8)単年度計画・中計の精査・実行」まで解説した。最終回である今回は、残る「(9)文化の共有」「(10)ガバナンスの構築」について、解説する。特に「段階取得」の場合に焦点を当て、リクルートホールディングス(HD)の「二段階アプローチ」の事例をもとに、「段階取得が有効な場合の条件」を考察したい。

文化とガバナンスはマジョリティー取得後を見据えて仕込む

「文化の共有」や「ガバナンスの構築」は、マジョリティー取得の場合であれば、会社によってスタンスは異なれど、必ず検討すべきものだろう。しかし、マイノリティー出資の際には、多くの場合、お互いの会社紹介をする程度であったり、ガバナンス面でもコンプライアンスや安全性などにかかる必要最低限のガバナンスルールの導入にとどまるのではないだろうか。

そういったマイノリティー出資の状態から、株式の追加取得を行い、マジョリティーを取得する(=「段階取得」とここでは呼ぶ)ケースにおいて、マジョリティー取得したからといって、すぐに自分の思い通りにいくわけではない。マイノリティー出資時の「相手との関係性」というのは、マジョリティー取得したからといってすぐに変えられるものではない、ということだ。

マイノリティー出資の際は、「自由に任せるから」と放置していたのが、マジョリティー取得後いきなり親会社から経営陣が派遣され、「今日から経営の舵をとります」と言われも、すぐに軌道に乗せることは難しいだろう。マジョリティー取得後、再度一から関係性を築いていく必要があるからだ。このようなことは極端かもしれないが、仮に、マジョリティー取得後のガバナンスについて、子会社の経営をある程度コントロールしておきたい、と考えるならば、それに向けた関係性づくりをマイノリティー出資の段階から仕込んでおく必要がある。

ある欧州の物流会社の事例(親会社:仏CMA CGM、子会社:スイスCEVA)では、24.99%取得段階から取締役2名を派遣、32.87%取得後、専門知識・経験を導入し業績立て直し支援、国際ネットワークを共有、ITプラットフォームを共通化するなど、マイノリティー出資段階から関係性を強化していた。最終的にはマジョリティーを取得(89.5%)し、会長・社長ともに親会社側の人間が就任するなど、経営権を完全にコントロールする形となった。このようにマイノリティー段階からじわじわと侵食するようなやり方もあるのだ。ガバナンススタイルは異なるが、日系企業の事例として、リクルートHDの事例を見てみよう。

リクルートHDの2段階アプローチ

リクルートHD取締役の池内氏は、2020年3月2日付「DIAMOND Online」のインタビュー記事で、2000年代のM&Aでは買収後のバリューアップの見立てが悪く、その計画通りにバリューアップできた試しがなかったことから考え出したのが、「2段階アプローチ」だったと述べている。「2段階アプローチ」とは、少額出資を通じ、培ってきた手法やノウハウが通じるかを検証した後、100%子会社化、或いは大型買収に踏み切るというものだった。

例えば、2015年5月に子会社化を発表した欧州のオンライン美容予約サービスを展開する英Hotspring社は、2014年時点で8.8%の少額出資をしていた。そして、子会社化当時のIR資料では、「当社が培ったノウハウの移管によりバリューアップを加速⇒『組織マネジメントノウハウ』や『CRM(カスタマーリレーションマネジメント)』ノウハウ等の知見を移管」と記載。まさに、少額出資中にノウハウが通じるかの検証を行い、子会社化に至った事例といえるだろう。

一方、リクルートは自社の企業文化である「自立性」を重んじる文化を買収先にも適用しており、決してリクルート色に染めようとしているわけではない。あくまで、リクルートの企業理念や行動規範、ノウハウ等を共有する中で、相手が良いと思ったものを取り入れてもらう、といったやり方のようだ。ただし、だからと言って完全に放任しているかというとそういうわけではなく、当初立てた計画のEBITDAなどの数値はコミットメントであり、それが達成できなければ、経営陣の刷新もなされうるという、評価制度でのガバナンスが確りと設計されている。