連載1回目でマイノリティー出資でも、企図したシナジー発現のために出資先との部分的な統合が必要な場合には、程度の差はあれ、PMIは必要であるとお伝えした。また、連載2回目では、両想いか片想いかによってPMIでどこまでやるかのさじ加減は異なる、ということもお伝えしたが、これらを前提に、具体的にマイノリティー出資のPMIで何をすべきなのか。参考:第1回記事 第2回記事

ベースとなるPMIの10の活動

弊社では、マジョリティー取得の場合のPMIの活動を、下記のような10の活動に整理し、モジュール化している。    

【Day0(契約締結)~Day1(クロージング)】
(1)M&Aのお互いの目的を再確認
(2)シナジーを再検討
(3)ガバナンス設計
(4)Day1イベント
(5)分科会を組成/マスタープランを作成

【Day1~Day365】
(6)100日プランの実行
(7)分科会の運営
(8)単年度計画・中計の精査・実行
(9)文化の共有
(10)ガバナンス構築

もともとはマジョリティー取得を前提として考えられたフレームワークだが、マイノリティー出資の場合でも応用が可能だ。

マイノリティー出資の場合に、カスタイマイズすべきポイントは何なのだろうか。今回は、契約締結からクロージングまでの(1)~(5)の活動について解説する。

Day0~Day1期間の意義とは

M&A巧者と呼ばれる企業は、この期間を有効に使っているケースが多い。契約締結後には、DD期間では得られなかった内部情報にアクセスできるようになり、検証しきれていなかったシナジーや戦略仮説について、追加の検証が可能となるからだ。また、クロージング直後から、事業運営を継続させ、対象企業従業員を巻き込めるよう、準備を進めておくことで、スタートダッシュできる(契約締結とクロージングが同日になる場合には、契約締結前に準備したり、クロージング後早期に実施)。

ただし、マイノリティー出資の場合は、契約締結後も情報量がさほど増えない場合が多い。例えば、マジョリティー出資では対象企業の顧客情報全てが閲覧可能でも、マイノリティー出資では閲覧可能な範囲には制限があるはずだ。一方で、情報量にかかわらず、マイノリティー出資でもやるべきこともある。

カスタマイズのポイントは得られる情報量と関係性

(1)M&Aのお互いの目的を再確認
【活動の意義】
契約締結後に、双方の出資する目的と出資を受ける目的をすり合わせ、目的達成後の姿のイメージ合わせをすることで、PMI担当者や双方社員へのM&A目的の落とし込みを早期に図る。

【マイノリティー出資の場合のポイント】
この活動はマイノリティー出資でも、情報量の差は関係なく実施可能ではあるが、トップ間でどこまで本音で語れるか、は両社の関係性にもよる。仮に、出資先側の目的は、メインは資金調達であり、そこまで相手とのシナジー効果は求めていない場合、「目的達成後の姿」を話しても時期尚早だろう。まだ付き合い始めたばかりで、結婚を考えていないのに、結婚後のイメージを持とう、と言っているようなものだからだ。

(2)シナジーを再検討
【活動の意義】
実現性のある事業計画を作成するために、契約締結後に得られた新たな情報をもとに、DD時点で検討していたシナジーや事業計画を再度検証することを目的とする。

【マイノリティー出資の場合のポイント】
契約締結前後で情報量の増加がない場合には、Day0~Day1での実施は難しい。一方で、契約交渉段階で、企図したシナジー実現のために、必要な情報に対する閲覧権を得ておくことや、キーマンとの連携ができる体制を検討しておくことで、クロージング後には確実に情報が得られるようにしておく必要があるだろう。

(3)ガバナンス設計
【活動の意義】
マジョリティー出資の場合には、クロージング後も対象企業が通常業務を継続し、親会社が適切に対象企業の状況を把握できるよう、最低限のガバナンス(体制やルール、経営インフラ等)を整える必要がある。

 【マイノリティー出資の場合のポイント】
マイノリティー出資の場合は、対象企業の事業運営への影響は小さい。ガバナンスには、シナジー発現のための攻めのガバナンス機能と、リスクや業績悪化をいかに察知するかの守りのガバナンスがあるが、相手企業とシナジーについて合意が得られているのであれば、前者の攻めのガバナンスにかかるルールを設けることもできるだろう。しかし、共通理解が得られていない場合には、守りのガバナンスの中でも最低限必要な部分から、ということにもなる。このように、何をどこまでチェックできる体制・ルールを構築すべきかは早期に検討する必要があるだろう。

(4)Day1イベント準備
【活動の意義】
Day1イベントは、統合後の従業員の不安を緩和し離職を防ぎつつ、モチベーション向上につなげるために行うものである。

【マイノリティー出資の場合のポイント】
実施要否は、相手にとっての出資が与える意味合い・影響度による。出資比率や金額的な影響度は大きくなくとも、従業員の業務に実際に変化が生じる場合や、メッセージ性の強い出資などの場合には、何かしら説明の機会を設ける必要があるかもしれない。

(5)分科会を組成/マスタープランを作成
【活動の意義】
「戦略の具体化」のために、いつ、誰が、何を検討するかを明確にし(=マスタープラン)、その検討に最適なメンバーを両社から選出した分科会を組成することで、戦略の実効性を担保する必要がある。

【マイノリティー出資の場合のポイント】
マイノリティー出資の場合でも、戦略的なシナジーを企図しているのであれば、そのシナジーを実現するために、いつ、誰が、何を検討するか落とし込みは必要だ。ただし、一般的なマスタープランの雛形にある項目はtoo muchな場合が多いため、雛形ありきではなく、出資の目的や相手との関係性に応じて、カスタマイズすべきであろう。

次回は(6)~(10)の活動について解説する。

文:MAVIS PARTNERSマネージャー 井上舞香