一般論として、M&Aの失敗の要因は、そもそものM&Aの目的や戦略が曖昧、検証が不十分など株式取得前の「前工程」に問題があったか、株式取得後の戦略の実行体制・計画が不十分だったなど「後工程」に問題があったか、いずれかに大別される。

マイノリティー出資では「関係性」がキモ

経験上、マジョリティー出資の場合は、仮に前工程に不備があっても、PMIの力の入れ具合によっては、後工程で巻き返すことも可能だと感じている。なぜなら、「資本の論理」を後ろ盾に、ガバナンスを効かせ、見直した戦略やシナジーをもとに実行体制を再構築することができるからだ。

一方、マイノリティー出資の場合、前工程での検討が不十分だったり、思い違いがあったりすると、後工程で巻き返すのは至難の業だ。マジョリティー出資のように資本の論理を振りかざして突き進むことはできない。

したがって、マイノリティー出資では、契約関係や、実務上の関係性(取引関係や技術面での協業など)、トップ同士の信頼関係といった「関係性」によって、ガバナンスを効かせる必要がある。

マイノリティー出資はいわば「同棲」

M&Aは「結婚」に例えられることが多い。だとすれば、マイノリティー出資は「同棲」と例えられるのではないか。そこで、マジョリティー出資を見据えたマイノリティー出資を、結婚を前提にした同棲と置き換えて、「マイノリティ出資後/同棲生活開始後の振る舞い方」の違いについて述べたい。

双方が「結婚を前提とした同棲」と認識している場合には、同棲段階から、家事の分担や生活費の負担のルールなど、当初から結婚を見据えたルール作りに意識が向くのではないだろうか。

一方、同棲には「本当にこの人と結婚しても大丈夫か?」という見極めの意味合いもある。結婚生活をシミュレーションしながら、互いの信頼関係が生まれ、めでたく結婚に至るパターンもあれば、「やっぱり違った」と気づき、引き返すパターンもあるだろう。結婚前の同棲には賛否があるが、この後戻りのしやすさが「同棲」の最大のメリットでもあるだろう。

当然ながら、必ずしも結婚を前提とせず、同棲する場合もある。その際、相手はともかく、こちらは密かに結婚したいと思っているケースもあるだろう。とすれば、同棲中に「この人と結婚したい」と相手に思わせる必要がある。

そこで、美味しい料理を振る舞ったり、家賃や食費など出来る限り自分が負担したりと、あの手この手の駆け引きがあるに違いない。逆に、最初から結婚を前提としたようなルールを相手に押し付ければ、「そんなつもりはない」と出て行ってしまうかもしれない。

このように、結婚に対して“両想い”か“片思い”かで、同棲中の振る舞い方は異なってくる。片想いの方が気を遣うわけだが、これはマイノリティー出資でも同じことが言える。

結婚前提かどうか、見極めよ

さて、それではマイノリティー出資の場合はどうか?

この場合の“両想い”とは、マイノリティー出資期間中に一定の成果が認められれば、将来マジョリティー取得することに双方で合意できていること。こうした前提があれば、当初の段階からマジョリティー取得時と同程度のルールを定めたり、出資元企業側のITインフラを共有したり、企図しているシナジーが実現できるかどうか、事業の中で実際に検証したり、かなり踏み込んだPMIの活動ができるはずだ。

そして、シナジーが引き出せそうだと判断すれば、マジョリティー取得すればよい(その際の判断ポイントは別の回で解説したい)。

一方、“片想い”の場合には、振る舞い方には気を付けなければいけない。

相手がマジョリティーをとってほしいと積極的には思っていない場合、自分たちの存在が相手のビジネスにいかにメリットがあるかを実感させる必要がある。例えば、販路共有、生産性向上のノウハウ、研究開発力、ITインフラなどの提供。この会社と連携を深化させれば、シナジーが生まれ、自社にも利益があると思わせなければならない。

マイノリティー出資を、いったん「結婚」や「同棲」のようなシチュエーションで置き換えて考えてみると、考え方を整理しやすのではないか。マイノリティー出資におけるPMIのさじ加減は相手との“両思い”か“片想い”かによって全く異なってくる。

文:MAVIS PARTNERSマネージャー 井上舞香