ビズサプリの庄村です。長かった梅雨も明け、コロナ禍でマスク着用のなか、気温が35度を超える猛暑となっているところもあるようですが、熱中症にはくれぐれもお気を付けください。
今回は事業承継の方法をテーマとします。
中小企業は我が国企業数の約99%、従業員数の約70%を占めており、経済や社会を支える存在として、また、雇用を支える存在として重要な役割を担っています。
中小企業庁によれば、中小企業経営者の高齢化が進み、経営者交代率は長期にわたって下落傾向にあるようです。すなわち、多くの中小企業では経営者が高齢化しているにもかかわらず、経営者の交代が起こっていないということです。このままでは優秀な中小企業が多いにもかかわらず経営者の高齢化と後継者不足によって廃業を余儀なくされる例も多くなってしまいます。
大企業の場合には、中小企業と違い、優秀な人材も多く代表取締役の交代も比較的頻繁に行われ、代表取締役候補もたくさんいます。むしろ出世競争を競う状況となります。特定の経営者に依存する部分が中小企業よりも少ないため、経営者が変わっても、会社運営が大きく変わることは少ないです。
一方、中小企業の経営者の多くは、悪く言えばワンマン経営となっていて会社運営が経営者個人に大きく依存していることが多いです。もし経営者が病気やけがで倒れたら大きな混乱が生じてしまいます。したがって、中小企業の経営者交代は慎重に対応する必要があります。
事業承継とは、会社の経営権や理念、資産、負債など、事業に関するすべてのものを次の経営者に引き継ぐことです。事業承継の方向性には、「親族内承継」、「親族外承継」、「第三者への売却」、「廃業」があります。
下記では、各事業承継の方向性の最近の動向とメリット、デメリットなどを説明します。
親族内承継は、現経営者の子をはじめとした親族に会社を承継させる方法です。
中小企業庁によると、20年以上前は親族内承継が83%以上ありましたが、息子や娘が多様な価値観の影響で事業を引き継ぎたくないと考えるケースや、経営者自身が子供に経営の負担を負わせたくないと考えるケースが増えているため、親族内承継は50%程度となり減少傾向にあるようです。
親族内承継は、一般的に、親族内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと、親族という身近な存在であるため、事業承継を行うにあたって重要となる意思の承継がしやすいこと、相続等により財産や株式を後継者に移転できるため、所有と経営の分離を回避できる可能性が高いといったメリットがあります。
一方、親族内に、経営能力と意欲を持っている後継者候補がいれば最良ですが、いない場合でも経営を任せがちであったり、相続人が複数人いる場合には後継者の決定や経営権の集中が難しくなったりします。特定の子供に承継させる場合には他の兄弟との間で不公平が起こらないようにしないと遺産トラブルがおこってしまう可能性が高くなってしまいます。
親族外承継は、会社役員や従業員など親族でない人に会社を承継させる方法です。
長年社長の右腕として会社をささえてきた会社役員・従業員や将来有望な会社役員・従業員が役員候補となるため、業務に精通しており経営方針の一貫性を保て、他の従業員の理解も得やすいこと、親族内に適性のある後継者がいない場合でも候補者を確保しやすいといったメリットがあります。
信頼している部下が会社を承継すると経営者も安心していられます。親族内承継の減少を補うように親族外承継の割合が近年増加しているようです。
一方、親族外承継は経営者から株式を相続する親族内承継と異なり株式が相続されないので株式の取得対価の準備が難しいというデメリットがあります。株式譲渡が行われないと、経営者にとっては非上場株式が現金化できず、経営者個人の保証や担保提供資産を外してもらえません。また、後継者にとっても所有と経営が分離されたままとなり、重要事項の決定権がないこととなり会社経営のモチベーションも下がってきます。
そのため、後継者の金融機関からの株式取得費用の融資や、黄金株(拒否権付株式)などの種類株式の発行、従業員持ち株会を活用するスキームなどで後継者の資金力問題を解消しているようです。
3つ目の引継ぎ方法は、M&Aによって会社を第三者へ売却する方法です。
親族や従業員等の親族外で適任な後継者がいない場合に、広く候補者を外部に求めることができます。多くの場合、株式譲渡によりM&Aが行われますので、経営者も会社売却の利益を得ることができます。
M&Aによる事業承継は中小企業の後継者確保の困難性により近年は増加傾向にあります。
M&Aによって第三者へ事業を承継するときには、経営理念や経営ノウハウの承継には留意が必要です。経営理念がうまく承継されないと経営者交代後に従業員のモチベーションは下がってしまいます。また、経営ノウハウがうまく承継されないと経営者交代後に取引は継続できないなどの弊害が生じてしまう可能性があります。
中小企業のM&Aでの企業価値は年買法(時価純資産+のれん代(年間利益の〇年分))で評価されることが多いです。もしM&Aによって事業承継をするのであれば高く会社を売却するために企業価値の向上に着手することが望まれます。
企業価値が高く魅力的な会社であれば買手もすぐに見つかりやすいです。
M&Aで最適な買手候補を見つけるまでには数カ月かかるのが一般的であり、買手が見つかったあとも数回のトップ面談等の交渉を得て最終的に買手と合意されM&Aが成立します(成立しないケースもあります)。したがって、M&Aを実施するときは時間的な余裕をもって取り組むことが必要になってきます。
M&Aは自力で行うことは不可能でありM&A仲介業者を選定してから取り組みます。M&A仲介業者は、専門の仲介会社、弁護士や公認会計士などいろいろな人が取り組んでいます。そのなかで信頼できる良いM&A仲介業者を選定することがM&Aを成功させるキーポイントになってきます。
M&Aによって買手企業がみつからない場合は、事業承継ができず、やむなく廃業に追い込まれるケースが出てきます。
文:庄村裕(ビズサプリパートナー 公認会計士)
株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.121 2020.8.6)より転載
現金以外の財産で出資することを「現物出資」といいますが、M&Aを実施する手法としても、現物出資が可能です。ここでは、現物出資による事業の買収を図解で説明します。
「事業譲渡」は、M&Aでよく使われる代表的な手法です。必要な資産のみを譲り受けることが出来るのが、最大のメリットです。