「M&A&D」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。M&Aが合併(Merger)および買収(Acquisition)を指すということはよくご存知でしょう。このような企業同士の結合や支配権の取得と表裏の関係をなすものとして、事業分離(Divestiture)の手法があります。

つまり、事業を買ったり、くっ付けたりする手法に加えて、事業を切り離すという手法も企業再編には欠かせません。M&A&Dはこのような企業再編手法をまとめて表現する時に使われる言葉です。本稿ではM&A&Dの中でも特に「D」の部分に焦点を当てて、具体的な手法や留意点を紹介したいと思います。

「会計監査六法」の中で分量の多い基準は何?

上場会社の経理部署にお勤めの方や公認会計士などが実務でよく参照する書籍として「会計監査六法」というものがあります。主要な会計基準や会計関連法令を収録した3000ページ超に及ぶ書籍です。

そこに収録されている会計基準類の中でも、ひときわページ数の多い文書が「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号)です。

これは「企業結合会計基準」や「事業分離等会計基準」を適用するに際してのガイドラインとなるもので150ページほどの分量があります。それだけM&A&Dにかかわる手法の類型や会計処理に与える影響の範囲が広いということでしょう。

事業分離の手法とは

それでは、事業分離にはどのような手法があるのでしょうか。これに関しては、主要な方法として会社分割事業譲渡が挙げられます。

会社分割とは、分離元の会社が事業の一部または全部を他の会社に包括的に承継させる手法です。会社分割には、既存の会社に事業を移転させる「吸収分割」と新設した会社に事業を移転させる「新設分割」があります。

会社分割では事業を受け入れた会社が対価として株式などを発行することになります。この株式を分離元企業に交付する場合を「分社型分割」、分離元企業の株主に交付する場合を「分割型分割」と呼びます。

例えば、B事業とC事業を営む分離元企業がC事業を新設会社に移転させる例を考えてみましょう。仮に新設会社が発行する株式を分離元企業の法人株主であるA社に交付した場合、A社の傘下にB事業を営む分離元企業とC事業を営む新設会社を持つ企業グループを形成することができます。

この例は「新設分割」でかつ「分割型分割」となる会社分割のケースということができます。このように会社分割一つを取ってみても複数の組み合わせが可能となるのです。

これに対して、事業譲渡とは、会社が有する特定の事業を事業譲渡契約にもとづき他者に承継させる手法です。事業譲渡会社分割合併のような組織法上の行為ではなく、固定資産などの売買契約にも似た取引法上の行為です。そのため、承継する資産や負債が契約上明らかになっており、簿外負債を引き継いでしまう心配もしなくてよいというメリットがあります。