セブンアイのスピードウェイ買収に関する報道を読み解く

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(東京・二番町の本社)

スピードウェイ買収完了後にセブンアンドアイが主張した理由

2021年5月17日、セブン&アイ・ホールディングス<3382>は、「一部報道について」と題するプレスリリースを公表しました。

買収完了後に連邦取引委員会(FTC)から「待った」がかかるという異例の事態にも関わらず、市場の注目度は低いようです。今回はプレスリリース公表の経緯と市場の反応について、証券アナリストの立場から解説したいと思います。

プレスリリースの内容は、セブンアンドアイがリリースの2日前に米石油精製会社マラソン・ペトロリアムのコンビニを併設するガソリンスタンド部門「スピードウェイ」の買収を完了したことを公表した直後に、日本の公正取引委員会に相当する米国の政府機関「連邦取引委員会(FTC)」の4名の委員のうち2名が、当該取引が反トラスト法(日本の独禁法に相当)に違反するとして反対意見を公表したことを受けて、「買収は適法に完了している」というセブンアンドアイの主張を公表したものでした。

大規模なM&A取引の場合、日本、アメリカを含む多くの国において、市場の独占・寡占による消費者の不利益を防止するため、日本における独占禁止法に相当する法律の定めに基づき、日本における公正取引委員会に相当する政府機関等が当該M&A取引によって市場における公正な競争環境が阻害されないかどうかを審査し、審査に合格しなければ取引を完了できない制度になっています。

各種報道によると、本来5名の委員による多数決で審査を行う連邦取引委員会に欠員が1名生じたものの、大統領選挙を直前にした共和党と民主党の抗争の結果欠員が補充されない状態になって共和党の委員2名,民主党の委員2名の膠着状態に陥り、審査が進まない状況に陥っていた模様です。

この影響により、セブンアンドアイによるスピードウェイ買収の審査も遅れていたようで、審査が開始されてから法律上の審査期限を過ぎたことから法律の定めにより審査に通ったとみなされた、というのがセブンアンドアイ側の主張です。

これに対して民主党側の委員2名が反対意見を表明したのですが、報道によれば、委員会としての公式見解と言うわけではないため、それだけで法律上何らかの効果が発生するものではないものの、委員が補充され、民主党委員が委員会の過半数を押さえれば審査のやり直し等が発生するリスクはあるとみられるとのことです。

いずれにせよ、米国の政治上の抗争に関係する複雑な問題が背景にあり、専門家ではない一般の投資家にはやや理解困難な状況が生じていると考えられます。

セブンアンドアイの株価の対TOPIX相対パフォーマンスは

この点、市場としては、株価にどのように織り込んでいるのか、セブンアンドアイの株価の対TOPIX相対パフォーマンスの推移を見てみたいと思います。

まず、時系列を整理すると、以下の通りです。

2020/8/3 買収合意を公表
2021/3/24 買収完了時期の予定取り下げを公表
2021/5/15 買収完了を公表。米連邦取引委員会(FTC)の4名の委員のうち2名が反対意見を公表
2021/5/17 「一部報道について」を公表

そこで、2020年8月3日の前営業日である2020年7月31日の終値を100として指数化したセブンアンドアイ株価とTOPIXの推移をもとに、セブンアンドアイの対TOPIX相対パフォーマンス(8/3を100としてセブンアンドアイ株価及びTOPIXを指数化し、「セブンアンドアイの指数/TOPIXの指数-1」として算出)をグラフ化すると、以下の通りとなります。

■セブンアンドアイHD株価の対TOPIX相対パフォーマンス

セブンアンドアイHD株価の対TOPIX相対パフォーマンス
©筆者作成

まず、買収直後は、どちらかというと高値掴みの懸念から市場はネガティブに反応しており、TOPIXをアンダーパフォームする傾向が続きました。2Q決算公表後は、一度持ち直しTOPIXをアウトパフォームする局面もあったものの長続きせず、アンダーパフォーム傾向が続きました。

その後、11月9日にいったん底を打ち、11月30日の二番底以後はトレンドが上昇に転換し、1/12の3Q決算発表後はさらにトレンドが持続して2月12日以降は安定的にTOPIXをアウトパフォームしています。

この間、3/24の買収予定の取り下げ、5/15の報道とそれに対する5/17の「一部報道について」の公表など、スピードウェイ買収に関する不透明感は持続していますが、マーケットはあまり反応していないことから、それ自体はあまり気にしていない模様です。

株式市場はスピードウェイ事業に期待していない?

セブンアンドアイのような超大型銘柄の場合、米国の反トラスト法の規制とその運用の実態に精通した専門家へのアクセスを有し、そのような専門家から適時適切に的確な情報を得ているような国内外の大手機関投資家のコンセンサスが株価に反映されていると考えられますから、そういう意味で現状はそれほど大きなリスクではないのかもしれません。

また、少なくとも買収公表後の株価の推移から察するに、市場はあまりスピードウェイ事業には期待しておらず、むしろコロナ禍での業績のボトムを確認できたこと、その後業績予想が上方修正されていることなどから、主に既存事業への期待から買われてTOPIXをアウトパフォームしているように見受けられます。

であるとすれば、仮にスピードウェイ買収手続きが想定よりも大幅に時間がかかったり、当局対応で追加的な事業売却が必要になったりしたとしても、そもそも期待が織り込まれていないためあまり株価には影響がないのではないかという仮説が立てられるのではないでしょうか。

文:巽震二(証券アナリスト/マーケットアナリスト)

※本記事に記載されている個別の銘柄・企業名については、あくまでも執筆者個人の意見として申し述べたものであり、その銘柄又は企業の株式等の売買を推奨するものではありません。

巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


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