【企業結合規制】エムスリーが日本アルトマークを買収した事例

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前回の記事では、公正取引委員会が審査する「企業結合規制」について簡単にご紹介しました。今回は、医療従事者向けプラットフォーム最大手のエムスリーが医療情報データベース事業者の日本アルトマークを買収した事例の審査結果をご紹介します。

デジタルプラットフォーム事業は革新的なイノベーションによって、短期間で競争優位を構築できる将来性を秘めています。今回のエムスリーの事例では、企業結合規制に該当しないものの、情報の寡占化により市場の閉鎖性・排他性が問われたことから審査の対象となりました。

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概要ープラットフォーム事業者がデータベース事業者を買収

エムスリー株式会社(以下、「エムスリー」と言う。)は、多くの医療関係者(医師、製薬会社、薬剤師等)が利用する様々なプラットフォームを提供する最大手(シェア75%)の会社です。2000年以降に創業した会社の中で、唯一、日経平均株価を構成する225の銘柄にも選ばれており、2020年11月以降、日経平均株価急上昇の牽引役となった会社の一つでもあります。

同社は2019年4月1日に、1962年創業の医療情報データベース(MDB)を提供する株式会社日本アルトマーク(以下、「日本アルトマーク」と言う。)の株式100%を取得し、完全子会社化しました。

日本アルトマークが提供する「MDBコード」は、製薬業界で事実上の標準(デファクトスタンダード)になっています。

この買収行為は独占禁止法の企業結合規制に該当しませんでしたが、公正取引委員会は「本件行為により競争が制限される懸念があった」ことから、独占禁止法第10条にもとづき企業結合審査を行いました。(独占禁止法において、企業結合規制に該当しなくても、公正取引委員会が職権で企業結合審査を行う場合があります。)

本件の概要図

本件行為に係る概要図
公正取引委員会【図2】本件行為に係る概要図より引用

企業結合審査の内容と結論

企業結合審査では、①水平型企業結合(競争関係にある企業同士の企業結合)、②垂直型企業結合(異なる取引段階の企業同士の企業結合)、③混合型企業結合(水平型企業結合または垂直型企業結合のいずれにも該当しない場合)に分類されますが、本件では、可能性のある②及び③について、審査されました。

②垂直型企業結合について
川下市場(医師及び製薬会社を需要者とした医薬品情報提供プラットフォーム運営事業)のエムスリーが、川上市場(MDB事業)の日本アルトマークを買収することで、市場の閉鎖性・排他性が生まれないか。(例えば、日本アルトマークが今までMDBを提供していたエムスリーの競合会社に情報を提供しなくなることなど。)

③混合型企業結合について
製薬会社は、今まで自由に川上市場及び川下市場の事業提供会社を選択できたが、エムスリーが日本アルトマークを買収することで、川上市場及び川下市場の事業を組み合わせて提供することで、市場の閉鎖性・排他性が生まれないか。(例えば、製薬会社に対しMDBコードの提供をエムスリーのプラットフォーム利用者に限定する、あるいは値引きすることなど。)

そして、公正取引委員会の企業結合審査の結果、上記②及び③共に、市場の閉鎖性・排他性が生じるおそれがあると判断されました。

そこで、エムスリーは、以下例として挙げた問題解消措置を申し出ることにより、最終的に、公正取引委員会から、本件が競争を実質的に制限することにはならないとの結論を得ました。

・エムスリーは、日本アルトマークが、エムスリーの競合会社に対して、医療情報データベースを提供することを拒絶しない。
・エムスリーは、日本アルトマークが有する競合会社の非公知情報を、エムスリーの役員及び従業員に開示しないよう日本アルトマークの役員及び従業員に周知する。
・エムスリーは、グループ会社の各種のサービスを提供する際、日本アルトマークが提供するサービスの価格を値引きするなどの有利な条件を設定しない。

本件のように、独占禁止法の企業結合規制に該当しない場合でも、公正取引委員会の企業結合審査の対象となる場合があるため、M&Aを行う会社は、企業結合後に競争を制限する行為がないか等、慎重に検討することが必要です。

文:弁理士 原田 正純(Office IP Edge 代表)

原田 正純 (はらだ・まさずみ)

1969年、山口県下関市生まれ。
1993年京都大学工学部を卒業、宇部興産入社。工場、ドイツ子会社、環境安全部、知的財産部などに勤務。この間、2006年に弁理士資格を取得。2013年に同社を退社し、弁理士事務所「Office IP Edge」(東京都大田区)を設立。
2018年M&Aスペシャリスト試験に合格。


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