株式交換を実施すると株主へも大きな影響を及ぼすため、反対株主には会社への「株式買取請求権」が認められます。会社と反対株主が協議しても株式の買取価格が決まらなければ、裁判所が株式の買取価格を決定します。

この記事では、かつてUSENとインテリジェンスが株式交換を実施した際に起こった「株式買取価格決定申立事件」の決定内容について、わかりやすく解説します。

1.インテリジェンス事件の概要

本件は平成20(2008)年に全国で音楽配信事業やインターネット接続サービスを手掛ける株式会社USENと人材派遣大手の株式会社インテリジェンスが株式交換を行い、インテリジェンスがUSENの完全子会社となったときに起こった事件です。

株式交換による完全子会社に伴い、当時ジャスダックに上場していたインテリジェンスは上場廃止となることが決定しました。M&Aで「相乗効果の強化を図る」と公表したUSENの株価が急反発する一方で、インテリジェンスの株価は急落します。その後、株式交換比率は「インテリジェンス 1:USEN 238」と発表しました。

インテリジェンスの株主は損切りするか、株式交換に応じるか、それとも反対株主として株式買取請求権を行使するかの選択に迫られます。

会社法785条1項は、株式交換に反対する株主に株式を「公正な価格」で買い取るよう会社へ請求できる権利を認めています。

基本的には株主と会社が協議によって買取価格を決定しますが、協議が整わない場合には株主は裁判所に訴えて株式価格の決定を求めることが可能です。その場合、裁判所が「公正な価格」を定めます。

そこで一部のインテリジェンスの株主は、適正な買取価格の決定を求めて裁判所へ申立を行いました。これがインテリジェンス事件の概要です。

2.裁判所による株式買取価格の算定

2-1.地方裁判所の決定内容

株式買取価格について、インテリジェンス(会社)は、上場廃止前の売買最終日の終値である4万3250円を主張、反対株主は11万712円や7万7500円を主張しました。

インテリジェンスの市場株価は、株式交換の計画公表直後に急落、株式交換比率の公表日は決算発表で通期の損益が590億円の赤字になると公表したこともあってさらに続落、上場廃止直前の最終売買日には半値近くまで株価が下落したという事情がありました。

平成20年7月1日株式交換計画公表日前日7万9500円
7月2日株式交換計画公表日7万4000円
7月10日株式交換比率公表日・第3四半期決算発表日7万3100円
9月22日最終売買日4万3250円
9月30日株式交換の効力発生日 ー

東京地方裁判所は「株式交換によって株主の価値が毀損された」としたうえで「株式交換がなければ株式が有していたであろう客観的価値を基礎として『公正な価格』を決定すべき」と判示しました。

すなわち、株式交換の影響によって株式の価値が下落した場合には「もしも株式交換がなかったら株価がいくらであったか」を算定すべきという意味です。このように「株式交換がなかった」場合の価格を「ナカリセバ」価格ともいいます。

この考え方をベースに、裁判所は「株式交換の効力発生日」を基準として「株式交換がなければ株式が有していたであろう客観的価値」を算定すべきとしました(東京地決平成22年3月29日)。

具体的には株式交換の効力発生日にできるだけ近接していて、かつ株式交換の影響を排除できる「株式交換計画の公表前の市場株価」を参照するのが相当としました。その上で、「株式交換の効力発生前の1カ月間の市場株価の平均値(出来高加重平均値)」により、1株当たり8万7426円と決定しました。

2-2.東京高等裁判所の決定内容

東京高等裁判所は、東京地裁の判断の枠組みを否定しました(東京高決平成22年10月19日)。というのも、計画公表日と効力発生日の間にリーマンショックが起こり、市場における金融危機が深刻化していた状態であったからです。

このように市場株価が一般的な株価変動要因によって変化している場合には、計画公表前の株価をそのまま採用するのではなく、市場変動による補正を加える必要があるとの理由です。

高等裁判所は、基本的に株式交換計画公表前の時価を基準としつつ、株式交換の計画公表日以後の市場による影響については「マーケットモデルによる回帰分析」という手法を使って補正を加えた上で株価を6万7791円と決定しました。

2-3.最高裁判所の決定内容

最高裁判所は、高等裁判所の判断を一部否定しました(最三小決平成23年4月26日)。

地方裁判所や高等裁判所は「株式交換計画公表前」の株価を基準にして計算しましたが、そうではなく「株式買取請求時」の時価を基準にすべき(一律ではなく株式買取請求権の行使日によって異なる)としたのです。その上で決定を破棄し、高等裁判所に差し戻しました。

3.本件の意義

本件の意義は2つあります。

3-1.市場変動を考慮

1つは「公正な価格決定の際、単に株式交換前の市場価格の平均をとるのではなく『市場の変動要素』をも考慮すべき」と判断された点です。

従来の裁判例は単純に組織再編の計画発表前の平均値をとるものが多かったのですが、この裁判例では「市場変動による補正」が加えられた意義があります。

3-2.株式買取請求時の時価を採用

2つ目は、基準時について「株式買取請求時」を採用すべきとした点です。地裁や高裁が「株式交換の計画公表前の時価」を基準とした考え方は最高裁判所によって否定されました。

以上がインテリジェンス事件の決定内容です。次回は、シナジー効果など企業価値が増加した場合の公正な価格の判断の枠組みが示されたコーエー・テクモの経営統合の株式買取価格決定申立事件を解説したいと思います。

文:福谷 陽子/編集:M&A Online編集部

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