NEXT STORY
M&A指南 六つの大切なこと(5)会社を売却する側の株主をどうするか
M&Aは事前のあらゆるリスクやメリットと、事後の事業経営の充分な検討以外にも、超長期的な株主構成に関しても充分な検討をしたうえで実行に踏み切って下さい。
法律の世界には「契約自由の原則」という言葉がある。強行法規や公序良俗に反しない限り、当事者間で自由に契約を締結することができるという意味だ。ナポレオンが皇帝として戴冠を受けたのと同じ1804年に制定されたフランス民法典にも存在した私法上の大原則である。
それでは、契約がまだ締結されていない段階で付与されるM&Aの優先交渉権はそもそもどのような性格を持ち、どの程度、当事者を拘束するものなのであろうか。今回は優先交渉権の概要とそれを付与する際の留意点を確認してみたい。
優先交渉権は独占交渉権とも呼ばれる。厳格な独占交渉権は売り手に第三者との交渉の一切を禁止するものであるが、何を禁止して、どのようなペナルティを設定するかは当事者の合意事項として事前に決定されるのが通常だ。
M&Aのスケジュールとしては、基本合意を交わし、買い手によるデューデリジェンスを実施し、最終的な契約条件の詰めを行うという大きな流れがある。実際にM&Aの交渉に入れば、お互いに多大な時間やコストを費やすことになる。
特に買い手にとっては、デューデリジェンスなどにコストをかけながら、他の買い手候補と天秤にかけられ、いつでも取引を白紙撤回される状態だと交渉力も弱まってしまう。そこで、一定の期間、優先交渉権を設定し、売り手と買い手がフェアな状態で交渉を進めるという実務が定着してきたのである。
優先交渉権の期間は取引の規模によっても異なるが、2~3か月の期間を設定することが多い。付与される時期としては、基本合意書を取り交わす時点で優先交渉権に関する条項を入れるのが一般的である。
基本合意書は、買い手から売り手に差し入れる意向書面であるLOI(Letter of Intent)の形式や買い手と売り手の間で締結される覚書であるMOU(Memorandum of Understanding)の形式で文書化される。その際に、例えば、売り手が第三者と交渉することや情報提供することを一切禁止するNo-Talk条項、売り手が自発的に買い手候補を物色することを禁止するNo-Shop条項などを盛り込むことになる。
M&Aは事前のあらゆるリスクやメリットと、事後の事業経営の充分な検討以外にも、超長期的な株主構成に関しても充分な検討をしたうえで実行に踏み切って下さい。