前回に続き、レックス事件を取り上げます。今回は「レックス・ホールディングス損害賠償請求事件」の訴訟の概要と判決の要旨を解説します。

1.レックス・ホールディングス損害賠償請求事件の概要

レックス・ホールディングス損害賠償請求事件は、当時日本最大の焼き肉チェーン「牛角」を運営していたレックスHDの元株主が同社を相手取って起こした訴訟です。

2006年11月にレックスHDは経営不振を理由として、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズから支援を受けて「AP8」という特別目的会社(SPC)に全株式を取得させる方法で「MBO」を行い、株式を非公開化しました。

レックスHDは当時のすべての株主から株式を買い取ったのですが、その際に「不当に低い価額での売却を余儀なくされた」として、株主らがレックスHDの当時の取締役および監査役に対し訴えを起こしました。

訴訟では、当時の取締役らの忠実義務違反や善管注意義務違反が問題となりました。

2.判決の要旨

原審では株主らの請求を棄却する判決(東京地判平成23年2月18日)が出ましたが、納得できなかった株主が控訴したため、東京高等裁判所で判決が下されています(東京高判平成25年4月17日)。

東京高裁は、以下のように判断しました。

・MBOの際、取締役や監査役は善管注意義務の一環として「公正価値移転義務」を負う。つまりMBOに際し、公正に企業価値を移転させなければならない。
・取締役は株主に対し、善管注意義務の一環として「適正情報開示義務」を負う。つまり株主が株式公開買い付けに応じるかどうか判断できるだけの適正な情報を提供しなければならない。
・ただし企業価値の公正な移転さえすれば良く、必ずしも「株式価格を最大化すべき義務」は負わない。

その上で、東京高裁は「本件におけるレックスHDの取締役らはMBOに際して会社価値を公正な価格で移転させようとしているので、公正価値移転義務違反は認められない」としながらも、一方で「株主に対する適正情報開示義務がきちんと果たされていない」として義務違反を認定しました。

そうはいっても「(適正情報開示義務違反によって)株主らに具体的な損害が発生していない」と、損害賠償請求自体は棄却されました。

3.判決において重要なこと

この東京高裁の判決において「企業がMBOを行う際、取締役に一定の善管注意義務が課される」と判断されたことには注意が必要です。

重要なのは、1.企業の価値を適正に移転させるよう行動せねばならない、2.適正な情報開示が必要という2点です。一方で、利益を最大化すべき義務までは求められませんでした。

レックスHD損害賠償請求事件は、MBO等の局面において取締役がどう振舞うべきか、その法的義務について問われた判例となりました。

先にご紹介した「レックス・ホールディングスの株式取得価格決定申立事件」をお読みいただくと、レックス事件についての理解がより深まると思います。

文:福谷 陽子/編集:M&A Online編集部

慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております

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