株式対価M&Aとは、買収会社が自社の株式を買収対価として実施するM&Aのことをいいます。

1 株式対価M&Aの意義

株式対価M&Aには、①買収会社が買収資金を調達せずに、買収対象となる会社(以下「対象会社」といいます)の株式を買収することが可能、②対象会社の株主が買収後の買収会社の株式を保有することとなるため、買収によるシナジー等の利益を享受することができるという利点があり、欧米の大規模なM&Aでは、現金対価のM&Aよりも対価の全部または一部として株式が用いられる方が多いという統計があります。

日本においても、株式対価M&Aが促進されれば、大胆な事業再編の促進、ひいては「新しい経済政策パッケージ」が掲げる「企業の収益性向上や投資促進による生産性革命」に資すると考えられています。政府が平成29年12月に発表した「新しい経済政策パッケージ」においても、「企業の収益性向上・投資促進による生産性革命」の一環として、「大胆な事業再編を行う際の株式対価M&Aの促進に必要な措置を講じる」と明記されており、産業活性化の一策として、株式対価M&Aが注目されています。

2 わが国における法制度上の課題

しかしながら、これまでは、会社法上および税法上の以下の課題により、わが国において株式対価M&Aは必ずしも積極的に利用されてきませんでした。

(1) 会社法上の課題

現在の日本の会社法において株式対価M&Aを実施する手法としては、株式交換株式交換完全子会社がその発行済み株式の全部を他の会社に取得させること)または現物出資(買収会社が、対象会社の株式を現物出資財産として対象会社の株主に対して株式を発行すること)を用いる方法が考えられます。

しかし、株式交換は、対象会社が外国会社である場合や、対象会社を完全子会社としない場合には利用できません。また、現物出資の場合は、原則として検査役の調査が必要であること、買収会社株式の引受人である対象会社の株主・発行会社である買収会社の取締役等に財産価額塡補責任が生じ得ること、さらには発行会社である買収会社から対象会社株主に対する新株発行について有利発行に関する手続が必要な場合があること、という問題があります。

こうした会社法上の制限が、日本企業において現物出資による株式対価M&Aが積極的に活用されてこなかった一因として指摘されていました。

上記の会社法上の課題に対応すべく、平成23年には、産業活力再生特別措置法(いわゆる産活法)が改正され、認定を受けた事業再編計画に従って自社の株式を対価とする公開買付けを実施する場合には、上記現物出資規制および有利発行規制等は適用されないこととする会社法の特例が創設されました(同法廃止後は、この特例が産業競争力強化法に引き継がれました)。しかし、同特例は、「公開買付け」により対象会社株式を取得する場合に適用範囲が限定されていたところ、同特例を用いた株式対価M&Aは一度も実施されませんでした。

(2) 税法上の課題

加えて、株式対価M&Aを実施した場合における、対象会社の株主に対する課税繰延べ措置が設けられていなかったことも、株式対価M&Aが積極的に活用されてこなかった原因の一つといわれています。