最近はECサイトを始めとしたウェブサイトの運用によって収益を上げる企業が増加しており、それとともにサイト売買の件数も増えています。しかし、サイトを売却してすぐに、売主が売却したサイトと同様の競合サイトを作ってビジネスを始めたらどうなるでしょうか。買主にとっては収益機会を逃し、大きなダメージとなるでしょう。 

今回は、ウェブサイト売買(サイト売買)がM&A手法のひとつである「事業譲渡」と認定され、売主の競業避止義務違反が認められた判例をご紹介します。

1.事案の概要

知的財産高等裁判所はサイト売買の事例においても会社法の「競業避止義務」が適用され、買主による差止請求や損害賠償請求を認める判決を下しました。

原告は、被告からロリータ・ガーリーファッションを中古で販売するECサイトを700万円で購入しました。ところが契約に際し、サイト売買契約書には競業避止義務の規定が盛り込まれていませんでした。それを良いことに、被告はサイト売却直後から、売却したサイトと同じようなロリータ・ガーリーファッションを販売する競合サイトを構築し、同種事業を始めました。

被告は顧客データも流用し、かつての顧客へメールを送って競合サイトの利用を勧める勧誘活動も行っていました。その顧客が被告のサイトに送るはずの問い合わせメールを原告のサイトへ送るトラブルが発生したことから、被告による競合サイトの運営が発覚しましたのです。

原告は被告による競業展開によって損害を被ったと主張し、会社法第21条3項にもとづいて競業サイトの差し止めと損害賠償を求め、裁判を提起しました。

2.ウェブサイト売買は事業譲渡に該当するのか

原告の主張

本件では契約書に競業避止義務が盛り込まれていなかったので、原告は「契約違反」を主張できません。そこで会社法第21条3項にもとづき、競合サイトの差し止めと損害賠償を求めることにしました。

会社法第21条(事業の譲渡をした場合の競業の禁止等)では、以下の通り、事業譲渡における競業避止義務を定めています。

会社法第21条(譲渡会社の競業の禁止)

1 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

つまり、「事業を譲渡した会社」は「同一の市町村およびその隣接市町村の区域内」において「譲渡の日から20年間(特約を設けた場合は30年間)」「同一の事業を行ってはならない」のです。

なお、会社法第21条3項の競業避止義務が認められるには、次の3つの条件を満たす必要があります。

会社法第21条3項が適用される要件

・「事業譲渡」に該当する
・「不正競争の目的」がある
・売主が対象事業と「同一の事業」を行っている

3.東京地裁の一審判決

一審の東京地方裁判所は、本件のサイト売買が会社法21条3項の「事業譲渡」にあたると判断しました。また、被告がサイト売却直前から競合サイトを作るための準備を始め、顧客データを使って勧誘などしていたことなどから、「不正競争の目的」も認めました。さらに、売却されたサイトも競合サイトもロリータ・ガーリーファッションを取り扱っており、顧客が間違えてメールを送るほど酷似する内容だったことから「同一事業」である点も認めました。

以上より、一審判決は会社法第21条3項にもとづいて差止請求を認めました(東京地裁平成28年11月11日)。

ところが損害賠償の請求については認めませんでした。その理由は、以下のとおりです。

・本件サイトや競合サイト以外にもロリータ・ガーリーファッションを取り扱うサイトは数多く存在する
・ウェブサイトによる販売業で利益を得られるかどうかは、競業他社の存在だけでなく運営者の経営手腕によるところも大きい
・被告が顧客データを使っていたとしても、それによってどの程度の顧客が本件サイトから離れてしまったのか、損害が発生したのかが明確とはいえない

被告は差止請求が認められたことを不服として控訴し、原告は損害賠償請求が認められなかったことを不服として附帯控訴(付帯控訴)*しました。*附帯控訴とは、控訴された人が相手に控訴し返す手続きのこと

4.知財高裁の判決

知的財産高等裁判所では原告の主張を認め、被告へ178万7400円の支払い命令を下しました(東京高裁平成29年6月15日)。その理由は、以下のとおりです。

・被告はサイト売買契約の締結前にすでに競業サイトのドメインを取得して準備を開始しており、売買契約の締結と前後して競業サイトによるに同種事業の展開を始めた
・売却サイトと競業サイトの取扱商品の多くが共通している
・被告は少なくとも100名の顧客にメールを送付して、競業サイトの宣伝をした
・実際に売却サイトと競業サイトを「姉妹ショップ」と誤認した顧客も発生した
・売却サイトの売上実績は、競業サイトの運営が開始された直後から大幅に減少した

5.裁判の意義とそこから学べること

この判例は、サイトの売買においては競業避止義務の規定を入れていなくても、会社法第21条3項によって差し止めや損害賠償請求できると判断したものとして、大きな意義を持ちます。

ただ、最終的に裁判で差止請求や損害賠償請求が認められるとしても、実際には裁判の費用や準備に時間がかかるなど、あらゆる面で負担は大きくなります。ウェブサイトを売買する際には、必ず競業避止義務を入れて対応しましょう。

一方で、売主がサイト売却後も同種事業を継続したいなら、取り扱う商品やサービス、エリアを制限したり売却価格を引き下げたりして、買主の利益を守る対応が必要となります。

文:福谷 陽子(法律ライター)

慣習に倣い、文中の判例は全て和暦で表記しております

参考URL
原審|裁判所 知的財産 裁判例集
判決|裁判所 知的財産 裁判例集

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