トヨタ自動車<7203>が燃料電池(FC)の新たな用途開発に乗り出した。同社は世界初の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を発売しており、同車に搭載するFCをオフィスなどでの発電機へ転用するものだ。FCVの普及は電気自動車(EV)よりも難しい状況にあり、巨額の研究開発費を投じたFCの有効利用策として注目される。

インフラ不足で伸び悩む燃料電池車だが…

トヨタは車載FCを換装した定置式発電装置を本社工場(愛知県豊田市)のエネルギー管理棟内に設置し、2019年9月12日から実証運転を始めた。 定格出力3.5kWの定置式燃料電池と太陽光発電で発生した電力をハイブリッド車(HV)「プリウス」の使用済みバッテリーを再利用した蓄電池へ充電し、工場に供給する仕組み。将来は小規模オフィス向けの発電システムとして販売する方針だ。

世界初の量産FCVであるMIRAIは2014年12月にデビューし、2019年7月までの4年7カ月間に累計3137台を販売した。月平均販売台数は56台にすぎない。MIRAIの車体価格が727万4880円(消費税込)*と高いこともあるが、致命的なのはFCの燃料を供給する水素ステーションが少ないことだ。

* 購入すると約225万円のエコカー減税・補助金を受けることができるため、実質的な車体価格は約500万円となる。

燃料電池車「MIRAI」の売り上げは今ひとつだが、燃料電池の前途は明るい(同社ホームページより)

2019年8月現在で水素ステーションの設置件数は全国で109カ所。「少ない」と不評のEV用の急速充電スポットですら2019年3月時点で全国に7748カ所ある。急速充電スポット以外でも普通充電設備を備えれば自宅で充電できるため、FCVのような燃料(電力)補給の苦労はない。

水素は自宅での供給は不可能で、ステーションの整備が進まない以上、FCVの普及は厳しいとみられている。しかし、自動車用としては使えなくても、定置式であれば次世代エネルギーとして極めて有望だ。なぜか。

先ず燃料の問題がクリアできる。定置式FCなら水素ではなく、都市ガスやLPガス、灯油など燃料として使えるからだ。こうした燃料はどこでも手に入り、水素ステーションのような新たな燃料インフラを構築する必要はない。

もちろん発電に使うのは水素だが、都市ガスなどの化学燃料を改質器に通すことで水素を得られるのだ。FCVで化石燃料を利用できないのは改質時に高温が発生し、その冷却に困るからだ。しかし、FCVでは致命的な「高温問題」も、定置式なら排出される熱でお湯を沸かしたり、二次発電に使ったりできるため、むしろ「メリット」になる。