定置式ならば優位性が高い車載燃料電池

次に自動車と違って、設置スペースに余裕がある。実は車載FCが高価なのは小型化が必要なため。ある程度の大きさが許容されるのであれば、FCの生産コストは引き下げられる。

定置式燃料電池はすでに家庭用で普及が進んでいる。
(パナソニックホームページより)

夢のようなFCだが、実はすでに実用化されている。2009年1月から都市ガス会社が中心に販売を始めたFC発電・給湯システムの「エネファーム」がそれ。発売当初の価格は約350万円*だったが、現在は140万~200万円程度**に下がっている。

* 140万円の補助金があったため、設置者の負担は約200万円だった。** 別途3万~24万円の政府補助金に加え、自治体からの補助金もつく。

定置式FCでは後発になるトヨタだが、車載用FCには先発製品よりも優れた点がある。それは小型化と対候性、信頼性の高さだ。

車載可能なほど小型化すると高コストになるが、同じコストであれば先発の定置式FCよりもコンパクトにできる。特に大容量電力が必要で多数のFCを組み合わせる大型ビルや事業所などの場合は、設置スペースが抑えられるメリットは大きい。

対候性については世界中を「野ざらし」状態で走行する自動車用として開発されたFCだけに、熱帯や砂漠から氷地までのあらゆる厳しい環境下で安定した性能を出せる。ましてや屋内に設置されるケースでは、「楽勝」といえるほど環境変化に強い。

信頼性も長距離走行や「ストップ・アンド・ゴー」を繰り返すというFCにとって乱暴な使い方を想定しているだけに、故障などのトラブルは定置式として開発されたFCよりも少ない。定置式では最も安定したFC発電システムといえる。

家庭用FCでは、それほどシビアな小型化や対候性、信頼性を要求されない。そのため家庭用に参入してもトヨタ製FCの優位性はアピールできないだろう。価格競争に巻き込まれるのは必至だ。トヨタが実証設備を「オフィス向け」としていることからも、自社製FCならではメリットが生かせるビジネスユースを狙っているのは間違いないだろう。

9月9日に関東地方に上陸した台風15号の被害により、千葉県内では10日以上経った現在も停電が続く地域が残っている。とりわけ病院や事業所は大きな痛手を受けており、自家発電施設のニーズも高まるはず。車載FCの転用先として、目のつけどころは非常によい。事業所向けFCを本格展開するために、既存の電気設備事業者などへのM&Aも考えられる。トヨタが「新たな電力エネルギーの担い手」として急浮上する可能性も大いにありそうだ。

文:M&A Online編集部