事実、日本で初めてコロナ治療薬と認められた米ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」も、中国で「二重盲検ランダム化プラセボ対照試験」を同4月までの予定で実施していた。
ところが中国国内で感染者数が激減した結果、試験は停止に。実施できた臨床試験は237例と少なく、治験としては不十分に終わった。欧州や日本でも感染者増のピークは脱しつつある。治験の対象となる新型コロナ感染者数は減少に転じているのだ。
「アビガン」に限らず新薬あるいは新しい用途で使われる既存薬には、薬効や副作用について十分な件数の治験が必要だ。「おそらく効くだろう」「副作用は少ないはずだ」では、後に重大な薬害事件を引き起こすことになりかねず、政府も承認してくれない。安全な薬を使いたい医師や患者だけでなく、製薬会社にとっても治験件数の確保は「命綱」なのである。
ギリアド・サイエンシズが同8日に「レムデシビル」を日本に無償提供すると申し出たのも「善意」というより1件でも多くの治験データを得るためだ。同社はすでに世界中で14万人分の「レムデシビル」を無償提供すると発表している。
日本政府も負けてはいない。同7日に国際連合を通じてフィリピンやマレーシア、ベルギーなど44カ国に「アビガン」の無償供与を始めた。最終的には80カ国以上への無償供与を目指す。無償供与の条件は、投薬による症状改善など医療データの提供だ。
新型コロナの「第2波」が来れば、効果的な治療薬を持つ国は医薬品のグローバル市場で優位に立ち、莫大(ばくだい)な利益を得るのは間違いない。外交の切り札にもなるだろう。それだけに新型コロナ治療薬の開発競争はデッドヒートし、世界中で治験対象となる「感染者の奪い合い」が起こっているのだ。
文:M&A Online編集部