本レター2016年8月号(第32号)でも報じたとおり、2016年7月1日、最高裁は、当時JASDAQ上場企業であった株式会社ジュピターテレコム(「JCOM」)の公開買付けと全部取得条項付種類株式を用いた二段階取引による非公開化取引に係る株式取得価格決定申立事件に関して、実務上重要な意義を有する決定をしました。具体的には、本決定は、①構造的な利益相反のある二段階取引による非公開化取引において、意思決定過程の恣意性を排除し、一般に公正と認められる手続きがとられた場合には、原則として取引当事者の定めた取引条件(公開買付価格を取得価格とする条件)を尊重することを最高裁として初めて判示し、また、②事後的な株式市況の変動を考慮した株価の補正を明確に否定したことで、M&Aを行う取引当事者の予測可能性を向上させるものであり、実務上重要な意義を有するものと考えられます(なお、当事務所は、公開買付けの検討段階からJCOM側で本件に関与しており、価格決定の裁判手続においてもJCOMの代理人を務めておりました。また、本判決の意義については桑原聡子=関口健一=河島勇太「ジュピターテレコム事件最高裁決定の検討」旬刊商事法務2114号(2016)16頁もご参照下さい。)。

 もっとも、利益相反関係が存在する場合に取引当事者の定めた取引条件が尊重されるためには手続きの公正性が確保されていることが前提となるところ、これを確保するために具体的に講ずべき措置として、本決定は、①独立した第三者委員会及び専門家からの意見聴取や②公開買付けに応募しなかった株主からの取得価格を公開買付価格と同額とする旨を明示したことを具体的に挙げるにとどまっています。また、本決定は手続きの公正性が確保されなかった場合の判断枠組みについては特段の見解を述べておらず、他方で過去の裁判例では手続きの公正性が確保されなかった場合には裁判所による裁量的な判断が示される事例も散見されることから、上記①②以外の措置の実施も検討し、手続きの公正性をより高めることが期待されます。

 具体的には、(非公開化取引を決定する前の)対象会社の株価の推移等を踏まえつつ、例えば、第三者委員会への機能・役割の付与(独立した法務•財務アドバイザーの選任権限、価格等の交渉権限の付与等)、フェアネス・オピニオンの取得、いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定、比較的長期間の買付期間の設定等について、個別の事案ごとにその要否を検討することが考えられます。また、手続きの公正性の確保に関する検討過程について、合理的に必要な範囲で記録化を行い、事後的な立証が可能となるような措置を講じることも非常に重要なポイントとなるものと思われます。

弁護士 大石 篤史
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弁護士 徳田 安崇
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文:森・濱田松本法律事務所Client Alert 2016年11月号Vol.35より転載

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