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ベンチャー投資契約、今求められる「M&A」対応 菅沼 匠弁護士に聞く

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菅沼 匠弁護士・公認会計士…東京・銀座の事務所で

エグジットの円滑化を促す役割

―M&Aによるエグジットの場合に欠かせないのが財産分配契約です。具体的に教えてください。

名称としては財産分配契約というよりも、買収分配合意(書)という呼び方が今やメジャーになっている。一言でいえば、これは優先配分の取り決め。今はほとんどの場合、種類株式が導入されるので、買収分配合意が必然的に求められる。

その中心をなすのがまず、みなし清算条項。ベンチャー企業にM&Aが生じた場合、会社を清算したものとみなして、優先分配権に従って買収対価を受け取る規定をいう。普通株主の創業株主は対価が分配されないこともあり得る。

もう一つが同時売却請求権で、ドラッグ・アロング・ライトとも呼ばれる。多数の投資家の賛同などの一定の要件を満たした場合、創業株主を含む株主全員に買収に応じるべきことを請求できる権利を指す。

これらの買収分配合意は、株主間契約の当事者に入っていないエンジェルや従業員株主らも含めた株主全員が参加する点に大きな特徴がある。

エグジットの局面では時に、VCと発行会社・創業株主の利害が一致しないことが考えられますが、トラブルに発展する場合もあるのですか。

投資契約や株主間契約をめぐる訴訟は以前からあるが、買収分配合意については、株主全員の合意により、事前にM&Aの発動に関する規定とM&Aが生じた際の株主間の分配方針を明確に定めておけば、訴訟化するリスクも限定的になるものと思われる。

もちろん創業株主がM&Aに消極的というケースも考えられるが、全体としてみた場合、紛争防止というよりも、エグジットを円滑化する役割の方が断然大きいと感じる。

電子署名の定着で作業負担の軽減へ

―今後の改善点など課題はどうですか。

自分なりに一つ挙げるとすると、契約書への記名・押印を電子署名で行うことに関して。

買収分配合意では当事者が数十人に及ぶことがしばしば。原本を数十人分用意して全員に回し、サインをもらうのは大変骨折れる作業で、電磁的なサインで済ませられないかと常々思っている。製本するのもひと苦労で、当事者の中には引っ越していたり、代表者が変更になっていたりする。

契約当事者全員の控えが押印された原本であることは必須ではなく、コピーの控えであっても全員の合意が立証できれば、裁判的に問題ない。すでに電子署名を取り入れている事例もあるが、まだ一部に過ぎないので、何とか手を尽くしたい。ベンチャー投資の環境整備にも資すると思っている。

菅沼 匠(すがぬま・たくみ)さん

弁護士・公認会計士。2002年に大学在学中に公認会計士二次試験(05年公認会計士登録)に合格。監査法人トーマツを経て、料理レピシサイト大手のクックパッドでは初期メンバーとしてマザーズ上場(09年。現在は東証1部)に関わる。2011年に司法試験に社会人合格。クレア法律事務所を経て、2015年にリンクパートナーズ法律事務所を創立(パートナー)。長野県松川町出身。

聞き手・文:M&A Online編集部 黒岡 博明

M&A Online編集部

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