かつて中小企業のM&Aといえば、テレビドラマにもなった小説「ハゲタカ」で描かれたような敵対的買収のイメージが強かった。しかし、最近では後継者不足から経営者も不本意ながら廃業を余儀なくされるケースが急増。中小企業の独自技術と雇用、顧客を守るための事業承継M&Aを選ぶ経営者が増えている。中小企業が事業承継M&Aを成功させるためには、どのような準備が必要なのか?

そこで2019年6月に事業承継M&A『磨き上げ』のポイント」(経済法令研究会刊)を上梓した岡本行生アドバンストアイ社長、金井厚新生銀行企業情報部長、岩松琢也税理士法人丸の内アドバイザーズ代表社員の3人に、中小企業が事業承継M&Aを成功させるために必要な準備とポイントを聞いた。

「初歩的なこと」をきちんとやっておく大切さ

-「事業承継M&A『磨き上げ』のポイント」で挙げられている企業売却を有利に進めるための準備ですが、「株主名簿の作成・管理」や「会計帳簿の適切な作成・保管」「事業計画の作成」「営業状況・顧客・仕入れ先の管理」「税の申告書控えの保管」「契約書の整理・保管」「給与台帳・賃金台帳の整理」「社内の整理整頓」といった、ごく当たり前のことが書かれているように思いました。

岩松 「こんな初歩的な内容が本になるのか」とも思ったが(笑)、現場では「こんなこともできてないのか?」と驚くこともしばしば。当たり前のことができていないことがトラブルになり、M&A交渉が破談になるケースも多い。

金井 事業承継M&Aのための準備と言っても、当たり前のことがほとんど。しかし、これらができていないと交渉はまとまらない。買い手にとっては当たり前のことができてないと、買収する事業の全体像が分からないため不安になる。結局、売り手にとっては想定を下回る買収額を提示されるということになりかねない。

「買い手は当たり前のことができてない企業の買収は不安になる」と、金井さん

岡本 とりわけ大手企業は買収する企業の実態が「分からない」ことを最も嫌う。価格が高いからではなく、分からなくて怖いから買わない。きちんと準備をしていれば大手企業に売れたのに…というケースもよくある。より良い相手に、より高い価格で売るには「事業承継M&A『磨き上げ』のポイント」で指摘した当たり前の準備が欠かせない。