みなさんの会社のM&Aに関連する稟議書には、次のようなワードが使われていないだろうか。「XX事業基盤の構築」「XXとXXの融合」「XXを活用した更なる成長」……挙げていくとキリがないが、もしこのような言葉が稟議書に並んでいたら、注意したほうがいい。これらは曖昧な「シナジー」を積み増すときによく使われる言葉だからだ。
最近は、M&Aは経営戦略実現のための“手段”という意識も以前に比べると浸透してきたが、それでもやはり、いつの間にかM&A自体が目的化してしまうケースは少なくない。買うことが前提になってしまうと、買収価格が引き上がっていっても後戻りできず、買収価格を正当化するための「シナジー」を積み増す(妄想する)ことになる。
ポストM&Aにおいても、この「シナジー」が関係者を惑わす。買収を正当化するために積み増された「シナジー」は具体化するにも具体化しようがない。困難だ。実際に、「実務現場では、こんなシナジーなんて出ないと分かっているが、上から言われて無理やりシナジー創出プランを“作文”するしかなかった」という話は複数企業のM&A担当者から聞かれる。
なぜ、このような事態が起きてしまうのか? 1つには「シナジー」という言葉の便利さに原因があるように思う。近年でいえば、ビッグデータ、AI、デジタルトランスフォーメーションといったビッグワードが世の中を賑やかせているが、この「シナジー」もなかなか使い勝手の良い魔法の言葉だ。何となく意味は伝わるが実態がない。人によって解釈が異なるのに、使うと何となく分かった気になる。
そこで、今回は「シナジー」という言葉のおすすめの取り扱い方についてお伝えしたい。言い換えれば、「シナジー」の区別だ。
そもそも「シナジー」とはどのような意味を持つのか? 大辞林第三版によれば、「①共同作用。相乗作用。② 経営戦略で、販売・設備・技術などの機能を重層的に活用することにより、利益が相乗的に生みだされるという効果。」ということだ。要は、シナジー効果を創出するということは、2つ以上の機能を組み合わせて1+1>2の効果を出すことだ。
しかしながら、「シナジー」という言葉を多用すると、短期的に2社で何ができるかという“コラボレーション(協業)”の発想が強くなってしまい、戦略面・意識面ともに悪影響が出てしまう。戦略面では、中長期的に2社が融合して事業戦略を実現するという意識が弱くなり、当初の買収目的がないがしろにされやすくなる。意識面では、現場レベルでの機能や業務で協業する取組みと捉えられ、経営のトップマターであるという意識が薄くなってしまう。
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