M&A(合併・買収)が経営の選択肢として中小企業にも急速に広がっている。その典型例が後継者不在に悩む中小オーナー企業の事業承継型M&Aだ。また同じ中小でも、新興のベンチャー企業では「出口(エグジット)」戦略として従来のIPO株式公開)に代わり、M&Aを活用するケースが増えつつある。

こうした時流をとらえ、9月に『中小企業買収の法務』(中央経済社)と題する著書を出版したのが弁護士の柴田堅太郎さん。中小企業のM&Aの実際や留意点、アドバイスなどを聞いた。

事業承継型M&A」と「ベンチャー企業M&A」にフォーカス

ー執筆の動機は。

実は、中小企業のM&A案件に買主側の法務アドバイザーとして本格的に関与するようになったのは2014年に独立し、この事務所を開業してから。それまでかかわってきた比較的規模の大きいM&A案件とは異なる特徴が多く、大変興味をかきたてられた。

ひと口に中小企業といっても、中小オーナー企業とベンチャー企業は目指す方向や資本構造などに大きな違いがある。したがってM&A取引に際しては、前者と後者それぞれの特質を理解したうえでの対応が望まれる。

中小企業におけるM&Aの活発化は事業承継とベンチャー企業振興という国の課題に資するところがある。実際、事業承継型M&Aとベンチャー企業M&Aはいずれも急増しており、二つの取引類型に特化して法務上の問題点や留意点を検討する必要性が高いと考えた。

ー中小オーナー企業とベンチャー企業にはどんな違いがあるのでしょうか。

その一つが資本関係。事業承継を検討するような中小オーナー企業の多くは長い業歴があり、相続を繰り返すことで親族内に株式が分散し、多数の少数株主が存在するなど株主構成が往々にして複雑だ。買主は対象企業の全株式取得を望むが、各株主の思惑が絡み、買い集めが大変な作業となる。

これに対し、ベンチャー企業の株主は経営株主(創業者)のほか、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェルなど、キャピタルゲインを目的とする投資家で構成される。出資はIPOやM&Aなどエグジットを想定して行われる。このため、優先株式の規定や投資契約、株主間契約の内容が複雑で、一般的な対象会社に比べて検討事項がかなり多い。

ソリューションの提案が大きな役割

ー中小の場合、コンプライアンス体制の不備に伴う問題もありそうです。

中小オーナー企業で多く見られる。例えば、株主総会や取締役会の不開催。議事録があっても、実際に開催されていない以上、株主総会や取締役会の決議は法的に存在しないことになる。サービス残業をさせて時間外割増賃金を支払っていないこともしばしばで、中小規模の会社では現実問題として完全に法令を遵守することが難しい場合がある。

買主の大手企業からすると、驚くようなことが多々あるが、法務アドバイザーは問題を指摘して終わりではない。瑕疵を治癒するためのソリューションを提案するのが大きな役割だと思っている。