アジア開発キャピタルとそのグループ会社が東京機械製作所の株式を買い占めていますが、TOBを実施しないで買い増しするのは、法律違反ではないのでしょうか。TOB実務に詳しい柴田堅太郎弁護士が疑問に答えます。
関連記事はこちら
・ファンドが「東京機械製作所」の支配権取得へ 2021年7月の大量保有報告書
・東京機械製作所・ニップン・みずほ銀行|今夏、思わぬ出来事に遭遇した企業3選
・アジアインベストメントが提出した東京機械製作所の大量保有報告書一覧はこちら
株券等所有割合が3分の1を超える市場外での買付けは、TOB(公開買付け)による必要があります(金融商品取引法27条の2第1項2号)。
アジアインベストメントファンド及びアジア開発キャピタル(以下「アジア開発キャピタルら」といいます。)は、8月23日までに提出されているその大量買付報告書の変更報告書によれば、本年6月以降、株券等保有割合合計38.64%を段階的に取得しているところ、いずれの取得も市場内によるものとしています。
そのため、たとえ株券等所有割合が3分の1を超える取得であっても、市場内の取得である以上、アジア開発キャピタルらの東京機械製作所株式の取得はTOB規制に違反しないこととなります。
もっとも、東京機械製作所は、アジア開発キャピタルらによる株式取得の適法性について問題視しているようです。
すなわち、アジア開発キャピタルらに宛てた9月10日付質問状において、大要以下の質問を提出しています。
「27.信用取引の合計1,698,400株の内、その大半はアジア開発キャピタルの子会社であるワンアジア証券からの信用買いによるものでありますが、ワンアジア証券は信用買いに対応する売建て玉をどのように調達しているのか…ご回答ください。」
「28, 上記に関連して、当社株式の出来高は、特に本年3月ころから、これまでの出来高に比して極めて大きくなっていること、また大量保有報告書の記載に基づくと、アジアインベストメントファンド及びアジア開発キャピタルは、さほど流動性のない当社株式をすべて『市場内』で買い集めたとされていて、その状況に鑑みて、極めて不自然な取引であること等から、貴社グループないしその関係者がアジアインベストメントファンド及びアジア開発キャピタルによる買集めに先行して取得し、6月9日以降に、これらをアジアインベストメントファンド及びアジア開発キャピタル名義で取得したことを疑わざるを得ない状況です。本年年始以降の貴社グループ及びその関係者による当社株式の売買状況についてご回答ください。」
また、東京機械製作所による同日付「当社株式の不自然な大量買付け等について」と題するお知らせにおいても、同社株式は年初の終値と比較して10倍もの異常な高騰を見せていること、アジア開発キャピタルらによる大規模買付行為等が行われた本年6月より以前の3月中旬ころから、これまでの同社株式の流動性に比して非常に大きな出来高(10万株超)の日が複数生じていることについて「一連の不自然な取引状況」に鑑み、一般株主の保護の観点から関係機関に必要な情報提供を行ったとしています。
以上からすると、東京機械製作所としては、同社株式の状況からすると、アジア開発キャピタルらが実質的にはTOBを行わずに市場外で取得しているのではないか(TOB規制違反ではないか)という疑いを持っているのではないかと推察されます。
現在のやりとりのみではアジア開発キャピタルらによる株式取得がTOB規制上問題のあるものだったのかはなお明らかではありませんが、東京機械製作所による質問に対するアジア開発キャピタルらによる回答を含め、今後の動向に要注目です。
文:柴田堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所 弁護士)
参考URL
・当社株式の不自然な大量買付け等について
・9月10日付で当社よりアジアインベストメントファンドらに送付した質問(必要情報リスト)について
所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録
取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般
柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/