完全子会社化取引における買収後の経営体制の合意について考える|ニトリの「島忠TOB」から

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完全子会社化取引における買収後の経営体制の合意について考える
-ニトリホールディングスによる島忠公開買付けを題材に-

1. はじめに

昨年、世間の耳目を集めた株式会社ニトリホールディングス(以下「ニトリHD」という。)による株式会社島忠(以下「島忠」という。)株式に対する公開買付け(以下「本公開買付け」という。)は2020年12月29日に成立し、島忠はニトリHDの子会社となることが確定した。現在、島忠において、完全子会社化に向け、株式併合によるスクイーズアウト手続が進められている。

本件は当初、DCMホールディングス(以下「DCM」という。)による島忠への公開買付けが行われたところにニトリHDが対抗公開買付けを行ったことが注目されたが(なお、DCMの公開買付けは、ニトリHDによる対抗公開買付け以降、公開買付価格の引き上げも行われることなく、2020年12月14日に応募株式数が買付予定数の下限を超えないまま公開買付期間末日を迎え、不成立となっている。)、完全子会社化取引であるにもかかわらず公開買付者と対象者との間で公開買付け後の業務提携、経営体制維持の合意が行われた点が特徴的であったことから、本稿では、公開買付届出書その他の開示資料で得られる情報をもとに、その点について検討を試みる。

2. 経営統合契約の内容

ニトリHDと島忠は、2020年11月13日、経営統合契約(以下「本経営統合契約」という。)を締結している。本経営統合契約の内容のうち、完全子会社化取引における合意として特徴的である点は以下の「本公開買付け後の業務提携等」の箇所である(下線部は筆者による。)。

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(ⅳ)本公開買付け後の業務提携等

(a)本公開買付け後の業務提携等の内容
・公開買付者及び対象者は、本経営統合によるシナジーを最大限発揮するため、本公開買付けに係る決済開始日以降、以下の各事項について業務提携を実施するものとし、公開買付者は、公開買付者グループ各社をして以下の各事項を実施させるものとする。
 (1) 対象者店舗の全国展開による高品質な家具の販売機会の拡大及び幅広い顧客層の豊かな暮らしの実現への貢献
 (2) 対象者のホームセンター商品と公開買付者のホームファッション商品との相互補完による販売拡大、及び、公開買付者のPB商品の開発力と対象者の事業領域における知見その他のノウハウの共有を通じたPB商品の開発による対象者の利益率向上
 (3) 物流センターを含む物流機能の共同利用及び配送管理に係るノウハウの共有による家具を含む商品配送の効率化、顧客拡大及び顧客満足度向上
 (以下、業務提携項目について中略)

(b)統合推進委員会
・本経営統合の円滑な実施のため、本公開買付けの決済開始日をもって、公開買付者及び対象者がそれぞれ指名する者によって構成する統合推進委員会を設置し、以後、同委員会において、本経営統合に必要となる情報の共有を行うとともに、対象者の5か年事業計画(以下「5か年事業計画」といいます。)、公開買付者グループと対象者との間のシナジーの創出に係る提携事項その他本経営統合の実施に係る事項を協議、決定する。

(c)対象者の経営体制
・5か年事業計画の内容について決定した場合、その達成に向けて合理的な範囲内で最大限努力を行う。
・5か年事業計画の対象期間並びに対象者の経営及び業務の継続性等を勘案し、本公開買付けの決済開始日後少なくとも5年間、対象者の業務執行取締役について現行の体制を維持するものとし、その任用条件についても現行の条件をベースに誠実に協議の上合理的に定める。
・本公開買付けの決済開始日後合理的な範囲で速やかに、公開買付者が別途指名する者3名を新たに対象者の取締役とする。

(d)公開買付者の経営体制
・本公開買付けの決済開始日後合理的な範囲で速やかに、対象者の代表取締役である岡野恭明氏を新たに公開買付者の取締役とするとともに、その他の対象者の業務執行取締役4名を新たに公開買付者の執行役員とする。

(e)対象者の従業員の雇用及び雇用条件の維持
・本公開買付けの決済開始日後少なくとも5年間、基本的に、対象者の従業員の雇用を維持するとともに、当該従業員の雇用条件について本経営統合契約の締結日時点の水準を下回らないようにする。
・公開買付者グループにおいて、対象者の従業員との間の人材交流(転勤を含みます。)を進める場合には、対象者の従業員の意向を適切に配慮する。

(f)対象者の商号等
・本公開買付けの決済開始日以降も、対象者の商号を変更せず、また、対象者の商標及びブランドを維持する。
・本公開買付けの決済開始日以降、対象者の店舗の統廃合を行う場合には、誠実に協議し、合意の上で行う。

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まとめると、ニトリHDと島忠は以下の事項について合意していることになる。
① 業務提携
② 島忠の5か年事業計画の実現
③ 5年間の経営体制の維持
④ 島忠によるニトリHDへの取締役派遣
⑤ 従業員の雇用保障
⑥ 島忠商号・ブランドの維持

この点、公開買付者による買付予定株式数を議決権の過半数にとどめ、対象者の上場を維持する公開買付けの場合には、公開買付者と対象者との間で資本業務提携契約等の名称の契約を締結し、連結子会社化後の業務提携内容や経営体制の合意をすることは珍しくない。

これは、上場を維持する場合には公開買付け後も少数株主がなお残るため、対象者経営陣にとっては、公開買付け後の企業価値の維持向上、ひいては少数株主の利益のために、公開買付者との業務提携によりシナジーを得るなどの企業価値維持向上のための施策が、公開買付けを賛同するにあたって重要な評価要素となるからである。

これに対して、スクイーズアウトにより少数株主の退出を伴う完全子会社化取引では、このような経営統合後の合意は本来不要なはずであり、従来そのような合意をする事例は極めて少なかったと理解している。完全子会社化後は保護するべき少数株主が存在せず、実質的には独立の二当事者間の関係ではなくなることから、完全子会社となる対象者の業務内容や経営体制は完全親会社となる公開買付者がその裁量で決定するべき事柄だからである(もちろん、一般的なグループ会社管理の方策の一環として、親子会社間で経営指導、権限移譲等の必要な合意をすることはあるが、それは事後的に公開買付者のグループ方針に基づいて親会社にて決定すれば足りることであって、公開買付けの賛同にあたり、公開買付者と対象者経営陣との間であらかじめ協議、合意するべき事柄ではないはずである)。

それにもかかわらず、本件における本経営統合契約で経営統合後の合意が行われたのはいかなる事情によるものか。

ニトリHDの傘下となった島忠(東京・中野の店舗)

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