「コロナ不況」にもかかわらず希望退職に申し込みが殺到する理由

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コロナ不況下にもかかわらず、当初想定を超える希望退職者が出るケースが増えている。

「不況」が変化し、しがみつくのは不利に

日本では希望退職を募集しても実際の応募は当初想定を下回り、人員削減に苦労するケースが多かった。しかし、このところ応募者が当初想定を大幅に上回るケースが増えている。上場企業の希望退職で想定外の応募が殺到した最初の事例として知られているのは、2001年2月に実施したマツダ<7261>

1800人の募集枠に対して、受付開始と同時に応募者が殺到。2時間後に急きょ募集を打ち切り、募集枠を2割以上も上回る2210人が退職することになった。突然の打ち切りに応募が間に合わず、「先月の予備面談で上司に退職の意志表示はしている。希望退職を受け付けろ」「いや、もう受け付けられない」との押し問答も見られたという。

当時のマツダは米フォード・モーターの経営支配下にあり、米国企業では当たり前だったが当時の日本企業では破格となる30歳代で年収の1.5倍、40歳代で2.5倍という退職金の加算に加え、ITバブルで再就職先に困らなかったという事情があった。

現在では日本企業でも米国企業並みの手厚い退職割増金や再就職支援といったサポートが充実している。さらには転職が当たり前となり、再就職への抵抗感がなくなってきたという働き手の意識の変化もある。

なにより日本経済の「不況」のパターンが変わったことが大きい。かつて「不況」といえば景気循環によるものと考えられており、「いずれ景気が上昇すれば、企業収益は持ち直す」というのが共通認識だった。だから希望退職に応じず、会社にしがみついている方が有利と考えられていたのだ。

ところが近年は「寿命」を迎えた業界は、これから景気が持ち直しても苦境が続くとの見方が一般的になっている。たとえば百貨店業界や同業界に大きく依存する大手アパレル、過当競争と人出不足に悩む居酒屋チェーンといった、当初想定を上回る希望退職者が出た業界が該当する。

こうした業界では、将来性が低い会社にしがみついている方がリスクは高い。むしろ「会社が手厚いサポートをする余裕があるうちに退職した方が有利」と考えるのも無理はない。企業にとっては「いかに1人でも多く希望退職に応募させるか」に悩む時代から、「どうやって当初想定の範囲内に希望退職者を抑え込むか」に苦慮する時代になったようだ

文:M&A Online編集部

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