日本企業による国内他社の敵対的TOB(株式公開買付け)が活発化している。上場企業に積極的な株主還元などを要求する「モノ言う株主(アクティビスト)」の存在感が高まる中、長い間タブーとされてきた大手企業同士の攻防もここへきて目立つ。

背景には、企業統治(コーポレートガバナンス)意識の高まりや株式市場のグローバル化が進んだことで、企業価値の最大化が一層求められるようになっているといった事情がある。

伊藤忠―デサントのTOB 国内初、大手同士で成立

2019年のM&A開示件数は前年を59件上回る841件と4年連続で増加し、2009年以来10年ぶりに年間800件台に乗せた。上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権移転を伴うM&A(グループ内再編を除く)を対象としている。M&A Onlineが集計した。

M&Aの取引総額は8兆1201億円で、2008年からの12年間では2018年(13兆7278億円)、2016年(12兆1578億円)に続く3番目の規模だった。また、TOB件数は46件(自社株買いを除く)、うちMBOが6件だった。

〇TOB件数の推移(届け出ベース、不成立案件含む)

なかでも、2019年のM&A市場を席捲したのが敵対的TOBだ。1月に伊藤忠商事<8001>が実施したデサント<8114>に対する敵対的TOBは、大手国内企業同士では初の成功事例となった。これは2006年8月に王子製紙が同業者の北越製紙(現北越コーポレーション)に仕掛けて*以来のことである。

*本件は三菱商事がホワイトナイトとなり第三者割当増資を実施、不成立に終わった

伊藤忠がデサント株の30.44%を保有する筆頭株主だったこともあるが、TOBへの応募が買い付け予定株数(721万株)の2倍を超える1511万株余りに達したという点は注目に値する。これは、買付価格が市場株価に50%近く*のプレミアムを上乗せしたからというだけでなく、デサントの経営改善に向けた伊藤忠の戦略が株主に歓迎された結果と言える。

*1ヶ月平均株価1880円に対し、買付価格は2800円と48.94%のプレミアムが付いた

長期化するユニゾ争奪戦

また2019年は、エイチ・アイ・エス<9603>がホテル事業の拡大を目指してユニゾホールディングス<3258>に仕掛けた敵対的TOBも話題となった。エイチ・アイ・エスのTOBは不成立となったが、日本の不動産市場参入を目論む米投資ファンドの争奪戦に移った。

ユニゾはこれらの買収提案を跳ねのけ、実現すれば国内上場企業初となるEBO(従業員による買収)に賛同を表明した。しかし、ユニゾの不動産ポートフォリオに関心を寄せる企業やファンドなど新たな買い手候補が現れる可能性もあり、年をまたいで長期化した駆け引きの行方が注目されている。

〇ユニゾに対する公開買付者・買付希望者 2020年2月12日現在

買付者買付価格内容
エイチ・アイ・エス3100円TOB不成立で8月23日に撤退
サッポロ合同(米フォートレス)5200円8月19日にTOB開始。TOBを12回延長し、現在も買付中
米ブラックストーン5600円TOBを検討中
チトセア投資(EBO+米ローンスター)5700円従業員による買収(EBO)を実施。非公開化を目指す。買付資金はローンスターから調達

増える敵対的TOB コーポレートガバナンス・コードの浸透が後押しに

ユニゾを含め、2020年も敵対的TOBが沈静化する気配はない。1月20日には前田建設工業<1824>が持ち分法適用関連会社である前田道路<1883>の子会社化を目指してTOBを行うと発表。前田道路が反対を表明したことで、敵対的TOBとなった。さらに、翌日の21日には旧村上ファンド系のオフィスサポートが東芝機械<6104>に公開買付けを開始。東芝機械は買収防衛策を発動して対抗する構えを見せている。

日本ではこれまで、企業の「乗っ取り」と見なされてきた敵対的TOB。しかし、2015年6月から上場企業に適用されている企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の浸透などでマイナスイメージは払拭されつつあり、TOBの成功率も高まっている。

〇敵対的TOBの件数とその成否(2006年~2019年) 

金融の世界では、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)という「他人の資産を預かって業務を行う場合、最大限の利益を還元するために行動しなければならない」という考え方がある。

つまり、金融機関や機関投資家らは株主総会などで経済的な合理性に基づく行動を取らねばならず、経営陣が反対する敵対的TOBであっても、高いインセンティブを得られるなら株式売却を受け入れるのは当然というわけだ。

〇敵対的TOBの成功例(2007年~)

公表日買付対象会社買付者買付者の属性
2007年10月 エーティーエルシステムズ日本アジアホールディングズ ファンド
2007年10月 ソリッドグループホールディングスケン・エンタープライズ 投資会社
2011年7月 コージツDRCキャピタル ファンド
2014年12月 豊商事プロスペクト 事業会社
2015年2月 セゾン情報システムズエフィッシモ ファンド
2015年3月 新華ホールディングステクノグローバル 事業会社
2017年2月 ソレキア佐々木ベジ 個人
2018年4月 サンヨーホームズ日本アジアグループ 事業会社
2019年1月 デサント伊藤忠商事 事業会社

敵対的買収は定着するのか

一方で、敵対的TOBを仕掛けられた企業の中には、東芝機械のように買収防衛策の発動を選択するケースもある。しかし、大幅な株価低下を辞さない新株予約権の発行といった買収防衛策は企業価値向上の機会を毀損しかねない。

買収防衛策は既得権益を手放したくない経営陣の保身に利用される懸念もあることから、発動に対する機関投資家の目は厳しさを増している。

国内では2007年に新株予約権の発行で買収阻止を図ったブルドックソースの買収防衛策(ポイズン・ピル)を最高裁が有効と認めたが、近年は買収防衛策を廃止に踏み切る上場企業も増えている。

上場企業は自衛策として、自社株買いなどを通じた株高政策を取る動きはより強まると予想される半面、「毒薬条項」と呼ばれるポイズン・ピルのような買収防衛策を放棄する流れが加速すれば、敵対的TOBの成功率はさらに高まっていくと考えられる。

何より、TOBを含むM&Aには資本や人材などの経営資源を再配分し、生産性向上や市場開拓などへのシナジー効果創出を期待できるメリットがある。

日本には組織の融和を重んじる企業文化も根強いが、株主や顧客本位の業務運営を重視する風潮が後退するとは考えにくい。このため、今後は欧米のように敵対的TOBのみならず、敵対的買収が定着していくのは間違いないと言えそうだ。

データ・文:M&A Online編集部