ユニゾホールディングスのTOBにみるサラリーマン経営の危うさ

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 ユニゾホールディングス(以下、「ユニゾ」)は、旧・日本興業銀行(現・みずほ銀行)系のビジネスホテルおよび不動産業を行う東証1部上場会社で、旧社名は常和興産である。

 2019年3月期における通年の売上高は560億円、経常利益は118億円、2019年4~6月期に限ると売上高が119億円、経常利益は23億円、また2019年6月末現在の純資産は1090億円となっている。

 旧・日本興業銀行系の不動産会社だったため保有不動産の含み益は大きく、含み益を反映した株価は1株=7000円台後半ともいわれている。

 そんなユニゾの本年6月末の株価は1844円、時価総額は631億円、その時点におけるPBRは0.58倍であった。不動産の含み益を反映した実質PBRを計算すると0.25倍ほどだったはずである。

 最近の日本の株式市場では珍しくないが「大変割安に放置されている会社」であった。その理由の一端は、ユニゾの経営陣はほとんど旧・日本興業銀行およびその親密会社の出身であるサラリーマンばかりで、大株主も(銀行は大株主にはなれないため)旧・日本興業銀行系の不動産会社や親密取引先が並んでおり、要するに「銀行出身のサラリーマン経営者が何の緊張感もない経営を続けていた」ところにある。

 そんな状態で当然のように株価も大変に割安だったユニゾに、株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)が7月10日に株式公開買い付け(TOB)を公表する。まさに青天の霹靂だったはずであるが、2019年3月末時点でHISはユニゾ株式の4.52%を主有する筆頭株主であるため、それ以前に全く何の接触(提携提案など)もなかったはずがない。

 そこはプライドだけは高い旧・日本興業銀行出身が大半を占めるユニゾの経営陣が、「たかが新興の格安旅行業者(HISのこと)ごときが生意気に!」と無視していたのであろう。

 そこでHISはTOB公表となったわけであるが、買い付け価格の3100円は、その時点の株価(TOB公表前日である7月9日の終値)の1990円より55%も高く、PBRもほぼ1倍に設定されている。また買い付け上限を45%としているため(その時点のHISの保有株と合わせると50%を超えるが)、HISはユニゾの上場を維持したまま、大株主として協業の道を探っていくつもりだったはずである。

 つまりこの時点のHISのTOB提案は、ユニゾにとってもユニゾの株主にとっても許容範囲だったはずである。何しろそれまでのユニゾの「ぬるま湯経営」により割安に放置されていた株価がほぼPBR=1倍まで回復したからである。

 ところがパニックとなったユニゾのサラリーマン経営者は、早速フィナンシャルアドバイザーに三菱モルガンスタンレー証券と大和証券、法務アドバイザーにTMI総合法律事務所と西村あさひ法律事務所、税務アドバイザーにEY(アーンスト・ヤング)税理士法人など「大変に値段が高い」アドバイザーを必要以上に多数雇って対抗する。

 これもユニゾの一般株主のために最良の判断をするためではなく、最初から「新興の格安旅行会ごとき」を排除するためであり、7月23日には反対表明を出している。最初から「答え」のある、どこかの国の特捜部のような決定であった。

 その理由も、シナジーがないとか、当社(ユニゾ)の企業価値を棄損するなど根拠が薄弱なものばかりであるが、その7月23日時点のユニゾの株価(終値)が3240円と、HISのTOB価格を上回っていたため、買い付け価格が不十分であるとの理由もあった。

 確かにその通りであるが、それはこれまでのユニゾのサラリーマン経営者による「ぬるま湯経営」で株価が割安に放置されていた「経営者としての責任」を逆手に取っているだけである。

 またHISが最後までTOB価格の引き上げに応じなかった理由は(8月24日に申し込みゼロで不成立が確定)、ホテル事業も行うHISにとってこれ以上の株価では魅力がないと判断したからであろう。

 そしてユニゾに対しては、8月16日にフォートレス・インベストメント・グループが1株=4000円でTOBを公表し、ユニゾは同日に賛同表明を公表している。TOB成立の最低株数は66.7%で上限は100%なので、TOBが成立すれば定款変更で全株取得しユニゾは上場廃止となることを前提にしている。

 フォートレス・インベストメント・グループは本年2月にソフトバンクグループが33億ドル(運用資産額などから考えると非常に高い!)で買収しているが、ソフトバンクはフォートレスの経営や運用方針に口出しができないはずである。

 そこで問題は、ユニゾは先ほど出てきた「大変に値段が高い」アドバイザーが選んできた16もの候補からフォートレスを選んだと公表しているが、そもそも何で「新興の格安旅行会社ごとき」のTOBを排除するために、歴史のある会社(ユニゾ)を外資系ファンドに売り渡さなければならないのか?

 フォートレスに限らず外資系ファンドのTOBとは、自己資金は3割程度で残りは借り入れで賄う。フォートレスも全株取得した場合の予定資金1375億円のうち自己資金は375億円で、残る1000億円は借り入れると「はっきり」書いてある。

 そしてこの1000億円の借り入れを返済するのは、全株を取得するフォートレスではなく、TOBの成立で非上場会社となるユニゾそのものである。今後は「あくせく」働いて稼いだ利益の大半で「自分を買収するための借金」を返済することになる。TOB成立後に、そのTOBのための特別目的会社とユニゾを合併させてしまうからである。

もちろん再上場ともなれば、その上場益を独占するのはフォートレスである。何しろ自己資金を375億円しか投入していないので、再上場時に1株=1100円くらいあればペイしてしまう。そんなフォートレスが、全株取得したユニゾの企業価値向上など目指すはずがなく、旧・日本興業銀行時代に取得した膨大な含み益がある不動産も叩き売られてしまうはずである。

 従ってTOB価格が1株=4000円でも5000円でも、フォートレスにとっては大した問題ではなく、株価がTOB価格を上回ればTOB価格を簡単に引き上げられるので、よほどのことがなければTOBは成立してしまう。上場維持を前提としていたHISのTOB案とは単純比較ができないはずである。

 ユニゾのサラリーマン経営者は、おそらくフォートレスに「TOB後も経営は任せます」と囁かれて舞い上がっているはずであるが、それはこういう外資系ファンドの常套手段で、だいたい半年以内にクビにされてしまう。まあ実力がないのでやむを得ない。

 さらに副産物として「世界最強(最凶)のファンド」であるエリオットまで引き込んでしまった。以前に破綻したアルゼンチン国債を捨て値で買い集め、法廷闘争で何と満額回収してしまった「あの」エリオットであるが、既にユニゾの10%弱を取得しているようである。エリオットとフォートレスでは「実力」が違うため、これから何が起こるかはわからない。

 いずれにしてもユニゾのサラリーマン経営者が、何とも厄介な「大間違い」をしてしまったことは間違いない。

本記事は、2019年8月29日公開 The Stray Times より転載しております

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