生産台数の急成長の背景にある2012~2015年の積極投資

中国のように急拡大する市場において、成長のボトルネックになるのは、基本的には需要ではなく供給である。競争相手に作り負けしてしまったら成長機会を逃してしまう可能性があるため、生産能力の適性で迅速な拡大が不可欠だ。

一方、自動車の製造ライン建設を用地選定から開始したとして、実際にラインから出荷が始まるのは、早くても2年程度、場合によっては3~4年かかる。つまり、吉利が現在生産を拡大出来ているのは、2012年~2015年にかけて着工し、順次完成した工場が稼働を始めているからである。

ボルボの買収が2010年だったことを考えると、これらの工場はボルボから吸収した様々な技術が活用された最新の工場ということになる。これは、ボルボの生産台数を見ても明らかだ。

ボルボの生産台数内訳を見ると、2016年から中国国内での生産が急拡大している。これは、吉利の支援のもと、中国国内で大規模なボルボの生産工場が立ち上がったことを意味する。

ボルボの生産台数(再掲)
マークラインズDBなどによりイグナイトパートナーズ作成

中国国内向けのXC60やXC40は、この中国工場から出荷されているはずだ。これを見るだけで、吉利がボルボの買収をいかに効果的に活用できているか推察できる。

またボルボにとっても、世界最大の中国市場での生産と販売は、企業の存続をかけた最重要戦略といえる。ボルボもまた、吉利の傘下に入ることで再成長のエンジンを手に入れたのである。

筆者は、M&Aにおいて「WIN-WIN」という表現を安易に使うことはあまり好まない。なぜなら、なかなかそんな教科書的なケースが実現することは少ないからだ。しかし、この両社の関係はきれいなWIN-WINに見える。吉利のボルボに対する統治方針もよいのだろう。支配権を持つからといって箸の上げ下げまでコントロールするのではなく、スウェーデン本社におけるボルボの自治と車づくりのDNAを謙虚に尊重しているように見える。

前稿と本稿では吉利がボルボの買収を通じて、中国民族系メーカーとしてトップメーカーに上り詰める過程を考察してきた。それでは、今後、吉利はどこに向かうのか。最後に少し述べてみたい。

3年後の未来はもう決まっている!

自動車ビジネスを考えるにあたっては、新車開発から生産ラインの立ち上げ、そして出荷とった一連のサイクルに、おおよそ2~5年はかかる。

つまり、2022年の吉利グループの可能性、引いては中国の自動車市場の風景がどのようなものになるかは、現時点(2019年)の行動でほぼすでに決まっているということである。これは、2019年の吉利の今が、2013年にほぼ決まっていたのと同じだ。

吉利は今、何をしているのか。それは次世代自動車領域、すなわち「ネクストモビリティ・テクノロジー(CASE/MaaS)」への巨額の投資である。

直近の吉利の主な投資行動は、以下のようなものがある。(ほんの一部)

・水素バスへの参入
・ドイツに次世代自動車技術研究の最先端研究所を新設
・独ダイムラーと共同で、プレミアム電気自動車(EV)ブランド「Smart」を共同で運営(グローバルに展開するための折半出資の合弁会社を中国に設立)

特に独自動車大手のダイムラーには、吉利の創業者である李書幅董事長が個人で一時10%程度(現在は一部放出し半分程度の模様)の株式を取得するなど、資本を含めた関係性を強化したい意図があるようだ。これはボルボの成功体験をもとに二匹目のどじょうを狙う戦略だろうが、ダイムラーが応じる可能性は低いだろう。

しかし、この件に象徴されるような李書幅董事長の投資行動は、国営企業のはざまでしたたかにたくましく生き延びて勝利を勝ち得た揺るぎない自信の表れに見える。そしてその成果が2022年には花開く可能性は高い。

翻って日系メーカーはどうだろうか。