躍進する吉利汽車のボルボ買収を総括する

スウェーデンに本拠を置くグローバル自動車メーカー、ボルボ・カーズ(Volvo Personvagnar AB;以下、「ボルボ」)の勢いが止まらない。XC60に続き、XC40も日本カーオブザイヤーに輝いた。昨今のSUVブームの中でも一歩抜きんでた洗練性を感じる美しいデザインである。

このボルボが、中国の非国営・民族系自動車メーカーである浙江吉利控股集团有限公司(Geely Group Holding Co. Ltd.;以下、「吉利」)に買収されたのは2010年である。

それから約10年。吉利はいまや中国を代表するメーカーに成長した。そしてボルボも、フォード傘下での苦境を乗り越え、吉利と共に優れた次世代自動車を次々と世に送り出している。

クロスボーダーM&Aは実質8割が失敗するという。筆者も同感である。そのような中で、吉利によるボルボの買収は、極めて高いレベルで成功した稀有な案件といえよう。そこで本稿では、このディールについて少し詳しく分析してみたい。

吉利汽車はどんな会社か

まず、吉利はどんな会社なのか。同社の概要を簡単にまとめた。

〇吉利汽車の企業概要

・1986年に現在の吉利汽車の持ち株会社にあたる、浙江吉利控股集团有限公司(Zhejiang Geely Holding Group Co.,Ltd)創業
・1997年に自動車製造を開始。2003年に、自動車製造会社として吉利汽車控股有限公司(Geely Automobile Holdings Limited :SEHK-1750)設立
・2010年に、吉利汽車の親会社である浙江吉利控股集团有限公司が、ボルボを買収

名称 吉利汽車控股有限公司 
本社 中国・浙江省杭州市
創業 2003年3月
董事長 李書福(創業者)
売上高 106,595百万元(※VOLVOは含まず)
吉利業績推移(ボルボは非連結)
CapitalQ DBなどよりイグナイトパートナーズ作成

〇吉利集団(グループ)の主なM&A

主なM&Aと概要
1986年 創業者の李書福が、冷蔵庫の製造企業として浙江吉利控股集団(吉利グループ)を設立
1997年 自動車製造を開始。浙江省臨海市にある組立ラインから初出荷
2003年民族系(非国営)自動車メーカーとして、吉利汽車控股有限公司(吉利汽車)を設立
2005年 吉利汽車(0175 HK)として、香港証券取引所に上場
2009年 世界で2番手の自動変速機メーカー「ドライブトレイン・システムズ・インターナショナル(DSI)」(豪)を買収
2010年 1月:フォード(米)より「ボルボ・カーズ」(スウェーデン)を完全に買収し、中国初の多国籍自動車グループとなる
 2月:ロンドンタクシー製造の「マンガニーズ・ブロンズ・ホールディングス(MBH)」(英)を買収
2013年 スウェーデンのイェーテボリに、「China Euro Vehicle Technology R&Dセンター」(Geely AutoとVolvo Carsの共同開発)を開設
2015年 2020年までに発売する自社ブランド車の90%をハイブリッドまたは完全な電動パワートレインを使用する新エネルギー車にする目標を示した「Blue Geely Initiative」を発表
2017年 7月:マレーシアの自動車メーカーである「プロトン」の株式49.9%を獲得
7月:スポーツカーメーカー「ロータス・カーズ」(英)の株式51%を取得
  11月:親会社の浙江吉利控股集団が、空飛ぶ自動車(空陸両用ビークル)の開発で知られる「テラフージア」(米)を買収
2018年 自動車大手の「ダイムラー」(独)の株式9.69%を創業者の李書福が取得。筆頭株主
2019年 1月:李書幅氏のダイムラー持ち分が半分ほど売却されたと報道

3月:ダイムラーと親会社の浙江吉利控股集団がスマートの事業に50%出資し、電気自動車を販売すると発表

イグナイトパートナーズ作成

2010年のボルボ買収を転機に、グローバルOEMへの進化を体現

吉利は、1986年に創業者の李書福が、冷蔵庫製造企業として立ち上げたのが最初である。翌年の1997年に自動車の製造を開始した(法人設立は2003年)。

中国の自動車市場は、北京汽車や長安汽車をはじめとする国営メーカーが圧倒的なプレゼンスを持つ市場である。これらの国営企業が、外資との合弁による技術導入(盗用ともいう)を重ね、世界一の規模と成長性を持つ中国の自動車市場を一手に牛耳ってきた。このような中で、1997年という早い段階に非国営の立場で自動車製造に参入した李書福の決断は、まさに中国人起業家精神の象徴といえる。

同社の近年の売上成長は、目を見張るものがある。2016年~2018年にかけて、売上高が3倍以上も拡大した。これは中国自動車市場の成長率を大きく上回るスピードである。

業績だけではない。さらに驚くようなデータがあるのでご紹介しよう。