3.日産自動車による過年度訂正処理

日産自動車は、ゴーン元会長らの逮捕後の2018年12月までの第3四半期報告書において、同氏に対する約92億円の役員報酬を一括計上しました。この金額には起訴の対象にならかなった2010年3月期の役員報酬が含まれており、また、証券取引等監視委員会による各事業年度毎の金額とも少し違います。日産自動車が精査した結果がこれだったということになります。

これまで報道されていませんが、この会計処理で大事なことが分かります。第3四半期で92億円を一括計上したということは、次の2つのことを意味しているということです。

・役員報酬の過少記載額は財務諸表にも計上されていなかった
有価証券報告書の過年度訂正は行わない

有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」の役員報酬が過少記載されていたとしても、財務諸表には正しく計上されていた可能性がありました。これは報道や証券取引等監視委員会の告発からは明らかではなかったのですが、日産自動車が上記の会計処理をしたということで、財務諸表にも計上されていなかったということが分かります。

次に、第3四半期に過年度分を含め一括計上したということは、過年度の財務諸表は訂正しないということになります。これは、過年度訂正をするほど金額が大きくないから、というのが理由と考えてよいと思います。

4.重要な事項の虚偽記載

有価証券報告書の虚偽記載は、金融商品取引法(金商法)違反になります。金商法には、虚偽記載に対する刑事罰が規定されています。しかし、刑事罰は対象者の権利に対する最も強力な制限となりますので、可能な限り限定的に用いられるべきとされています。これを刑罰の謙抑性と言うそうです。このため、刑事罰が科される場合を限定しなければなりません。

金商法では、開示書類の記載内容について、原則として「重要な事項の虚偽記載」がある場合に限定し、過失による場合は処罰されません。刑事罰が科される場合には次にようになります。

有価証券報告書を「提出した者」は、10 年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はこれらが併科
・両罰規定に該当する場合、法人に対しても7 億円以下の罰金

ゴーン元会長らが、この金商法に定める刑罰の最高レベルが科される場合には、個人は10年間の懲役と1,000万円の罰金、日産自動車は7 億円の罰金ということになります。

東芝事件では、過年度の有価証券報告書の訂正が行われ、6年9か月の間で累計1,518億円の税引前利益が過大に計上されていたことが分かりました。過去3人の社長などがこの不正会計に関わっていましたが、検察当局はこれらの社長を逮捕するには至りませんでした。日産自動車の場合、東芝のような財務諸表の虚偽記載ではなく、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況」における役員報酬の虚偽記載によって、逮捕・起訴されました。

検察当局や証券取引等監視委員会は、この役員報酬の記載を「重要な事項の虚偽記載」と判断したということになります。財務諸表の過年度訂正が必要ないほどの金額であっても、役員報酬の開示は「重要な事項」であると判断されたということになります。