TOB(株式公開買い付け)が昨年来、高水準で推移している。TOBの盛り上がりに伴い、激しさを増しているのが買付代理人の座をめぐる争奪戦だ。野村証券をはじめ証券大手4社がしのぎを削るが、ここへきて中小の三田証券が急速に存在感を高めている。証券会社別の最新ランキングは?
公開買付代理人とはTOBへの応募を受け付ける窓口の役割を果たす証券会社のこと。具体的には買収者に代わって、買収対象会社の株券の保管・返還や買付代金の支払いなどに関する事務を行う。TOBに応募する株主は、代理人の証券会社に口座を開設し、株式を移管する手続きが必要となる。
TOBの件数は昨年来、うなぎ登りだ。2020年のTOBは年間60件(届け出ベース)と前の年に比べ14件増え、過去10年間で最多を記録した。増勢は2021年に入っても続き、1~6月の件数は38件(6月25日時点)と、前年上期の24件を6割近く上回るペースで推移している。
こうした中、買付代理人業務をめぐる証券各社の争いが熱を帯びている。証券最大手の野村証券は昨年、全60件あったTOBのうち、3分の1にあたる21件で買付代理人を務め、2018年から3年連続で首位に立った。みずほ証券も昨年は12件と2ケタに乗せ、野村に次いだ。一方、2016年14件、17年11件でトップだった大和証券はその後、1ケタにとどまる。
2021年はどうか。SMBC日興証券がここまで11件と、巻き返しが目立つ。躍進ぶりが見逃せないのが三田証券(7件)だ。野村(6件)を抑え、2位につける。
◎2016年以降:公開買付代理人の証券会社別の推移(2021年は6月25日時点、復代理人はカウントせず、TOB件数は届け出ベース)
2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | |
野村証券 | 7 | 8 | 11 | 13 | 21 | 6 |
大和証券 | 14 | 11 | 8 | 9 | 5 | 2 |
SMBC日興証券 | 13 | 9 | 6 | 7 | 8 | 11 |
みずほ証券 | 7 | 5 | 9 | 7 | 12 | 4 |
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 3 | 3 | 2 | 2 | 7 | 2 |
東海東京証券 | 1 | 5 | 1 | 2 | 3 | |
岡三証券 | 1 | 1 | ||||
三田証券 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 7 |
フィリップ証券 | 1 | 1 | ||||
SBI証券 | 1 | 1 | 1 | |||
エイチ・エス証券 | 2 | |||||
その他証券 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
TOBの年間件数 | 50 | 46 | 42 | 46 | 60 | 38 |
とりわけ、三田証券の名前がとどろくのが敵対的TOB案件だ。2016年1月以降の過去5年半でみると、15件の敵対的TOBが行われたが、三田は半数以上の9件で買付代理人を務めている。今年だけでも5件のうち4件で三田の指名だ。
敵対的TOBで、買付代理人として買収側につくと、買収対象となった企業の反発や恨みを招くことになるため、証券会社は二の足を踏む傾向があった。これに風穴を開けたのが三田だ。
2012年末から13年初め、ゴルフ場業界を騒然とさせたPGMホールディングスによるアコーディア・ゴルフへの同業間の敵対的TOBで、三田は買付代理人を務めた。TOBは不調に終わったものの、「三田証券、ここにあり」を印象づけるエポックとなった。
三田は、対象企業の賛同を得られない敵対的案件であっても、コーポレートガバナンスの強化につながるTOBであれば業務受託することを基本方針としている。
◎2016年以降:敵対的TOBにおける買付代理人(※はTOB不成立)
年 | 公開買付者 | 対象企業 | 買付代理人 |
2021 | 日本製鉄 | 東京製綱 | 大和証券 |
〃 | フリージア・マクロス=進行中 | 日邦産業 | 三田証券 |
〃 | ※シティインデックスイレブンス | 日本アジアグループ | 三田証券 |
〃 | ※スターウッド・キャピタル・グループ(米) | インベスコ・オフィス・ジェイリート | 三田証券 |
〃 | アスリード・キャピタル(シンガポール)=進行中 | 富士興産 | 三田証券 |
2020 | 前田建設工業 | 前田道路 | 大和証券 |
〃 | ※シティインデックスイレブンス | 東芝機械(現芝浦機械) | 三田証券 |
〃 | META Capital=進行中 | 澤田ホールディングス | 三田証券(当初はSBI証券) |
〃 | コロワイド | 大戸屋ホールディングス | SBI証券 |
〃 | ※ストラテジックキャピタル | 京阪神ビルディング | 三田証券 |
2019 | 伊藤忠商事 | デサント | 野村証券 |
〃 | ※エイチ・アイ・エス | ユニゾホールディングス | エイチ・エス証券 |
〃 | ※フォートレス・インベストメント・グループ(米) | ユニゾホールディングス | 大和証券 |
2018 | 日本アジアグループ | サンヨーホームズ | 三田証券 |
2017 | 佐々木ベジ氏 | ソレキア | 三田証券 |
2016 | (敵対的TOBの該当なし) |
文:M&A Online編集部
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