【解説】上場廃止の危機に瀕した日本フォームサービスのTOB

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※画像はイメージです

2020年12月23日、日本フォームサービス<7869>がTOBの対象となったこと及び応募の推奨をプレスリリースしました。

上場廃止の危機に陥った企業をTOB

同社は1997年店頭公開後、制度変更に伴いJASDAQ上場となった業歴の長い製造業の会社ですが、2018年9月期~2019年9月期第二四半期にかけて粉飾決算が発覚し、上場廃止の危機に陥っていました。

このような会社がなぜTOBの対象となったのでしょうか?
プレスリリースを読むと、同族経営ならではの事情が見えてきます。

公開買い付けの背景

オーナー経営者の心理

まず、粉飾決算問題の解明のために設置された第三者委員会から、最大の責任者として当時の社長・筆頭株主であった山下岳英氏が糾弾され、引責辞任のうえ、ガバナンス強化のため取締役の過半を社外取締役で固めることとなりました。

ところが、上場廃止を回避するための内部統制再構築の協議を東証と進める中で、上場廃止を回避するためには山下岳英氏の取締役退任のみでは足りず、山下岳英氏の持ち株の第三者への譲渡による影響力の完全排除を求められることとなります。

しかし、山下岳英氏は持ち株売却を頑として拒む姿勢を見せます。公式には、配当とキャピタルゲインを享受したいという説明がなされていますが、本音としては会社を第三者に渡したくないというオーナー心理が強く働いていたのではないかと推察されます。

非上場会社として再出発へ

そうした中で、時間だけが経過していき、もはや上場廃止は不可避となった段階で、ある意味「落としどころ」として登場したのが、山下岳英氏の子である山下宗吾氏でした。彼は、おそらく3代目の社長となる前提で取締役でない経営企画室長のポストに就いており、いわばEBO(Employee buy out;従業員による買収)としてスクィーズアウトを伴うTOBを実施し、創業家100%保有の非上場会社として再出発する方策を取る決断をしたものと考えられます。

山下岳英氏は、紆余曲折はあるものの、おそらくは息子への「代替わり」であればということで、山下宗吾氏がTOBを実施して株式を100%保有し、取締役に就任して経営に当たること等を条件として保有株式の全てを無償贈与することに合意し、山下宗吾氏は創業者である祖父からすでに贈与されていた既保有分と合わせて単独で66.8%を保有する拒否権保有株主となりました。

事業承継スキームとしてのTOB

TOB価格は3,100円で、2021年9月期の会社予想EPS(1株当たり利益)160.71円に対するPER(株価収益率)は19.2倍と、堅実経営の中堅規模のメーカーであれば割とよく見かける水準です。

PBR(株価純資産倍率)は2020年9月期BPS(1株当たり純資産)4,962.47円に対して0.6倍で、資産の大半が生産設備で流動性がなく、キャッシュ・コンバージョン・サイクルも長い同社のBSからみればまあまあリーズナブルな水準と言えるでしょう。

そう考えると、本件はTOBを活用した一種の事業承継スキームと評価できるかもしれません。

文:巽 震二(証券アナリスト/フリーランス・マーケットアナリスト)

巽 震二 (たつみ・しんじ)

フリーランスマーケットアナリスト。
証券アナリストとして大手証券会社調査部勤務後、専業個人投資家に転身。
アベノミクスの波に乗って2015年、目標資産残高を達成し、トレーディングもめでたく卒業。 現在はフリーランスマーケットアナリストとして活動中。本連載はペンネームで寄稿している。


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