2019年10月、旧創業家から大戸屋HDの株式を買い取ったコロワイドは、2020年3月31日現在、大戸屋HDの19.15%を保有する筆頭株主です。コロワイドは、大戸屋HDの連結子会社を目指し、友好的買収を目指して大戸屋HD経営陣と協議を重ねましたが決裂し、2020年7月9日、ついに敵対的買収に踏み切りました。

同日開示のプレスリリースによれば、下限を1,872,392株(26%)、上限を2,300,000株(32%)として、1株あたり3,081円の買付価格を提示しています。

これに対して大戸屋HDの株価は、公表翌日の7月10日には3,050円まで上昇したものの、その後はなだらかな右肩下がりで推移し、8月3日の終値ではTOB価格に対して約90%相当の2,772円となっています。

さて、この状況において、コロワイドのTOB価格は高いのでしょうか、安いのでしょうか?

敵対的TOB価格「3,081円」は高いか安いか

まず、純粋に「3,081円」という買付価格を考えてみます。

大戸屋HDの2020年3月期はコロナ禍の影響もあって営業赤字648百万円、一株当たり当期純損失は158.47円と非常に厳しい状況です。外食産業はコロナ禍のダメージが非常に大きい業界ですから、ここからの回復にはコロナ禍そのものの解決が見えてくる必要があるでしょう。第2波が取りざたされる現況に鑑みても、ワクチン開発が成功するか、世界的に自然免疫による解決の方向に方針転換がなされるかしない限りなかなか難しいでしょう。

仮に、一株当たり純利益(EPS)がコロナ前の2019年3月期の水準に戻ったとして、3,081円という買付価格は株価収益率(PER)は403倍となります。逆に、例えば外食産業でよく見かける20~40倍程度のPERを前提とすると、一株当たり純利益は103円~206円までの改善を見込んでいることになります。

現状に鑑みれば、非常に高い株価といえるでしょう。

期待値はいくらか

次に、TOB上限から応募時の成約確率を算定し、期待値を計算してみます。

発行済み株式からコロワイドのグループ全体での既保有分と自己株式を控除すると、TOBに応募されうる株式の総数は5,852,900株となります。対して、TOB上限は2,330,000株です。よって、TOBに応募して成約する確率は40%となります。TOB価格に確率を乗じた期待値は、1,227円/株となります。

これに対して8月3日現在の株価は2,773円ですから、約2.3倍の価格で取引されています。

したがって、今から新たに市場で株式を取得しても、TOB価格で売り抜けることは困難な水準と考えらえます。

〇表1 TOB成約率と期待値

TOB成約率と期待値
©筆者作成

ではTOB価格は確率を考慮すれば安すぎるのでしょうか?

いくつかの仮定を置くと、そうとも限らないといえます。

上記の状況からは、
①市場は、実際にはTOBに応募しない株主が多く、TOBの成約確率はもっと高いと見積もっている
②市場は、コロワイドの傘下に入れば大戸屋HDの大幅な業績改善が期待できるとみており、仮にTOBに応募して成約しなくてもその後の業績改善を織り込んでいる
といった仮説が立てられると思います。

まず、①のTOBに応募しない株主が多い場合について考えてみます。