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企業法務弁護士が語る「上場維持の公開買付け」

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現実の中で適切な対応を

とはいえ、上場維持案件では、実際にはシナジーや上場維持の必要性を明確に説明できる事案ばかりではない。

そもそも、公開買付けの実質的な当事者は公開買付者と公開買付けに応募する大株主であって、両当事者によって条件交渉がなされる以上、直接の当事者ではない対象会社としては条件交渉への積極的な介入までは現実的に難しい場合が多い。

例えば、現在の大株主が対象会社株式を処分する入札案件において、公開買付者候補がA社とB社の2社いるとして、A社は対象会社とシナジーは大きいが提示した公開買付価格は低いのに対して、B社は対象会社とのシナジーは小さい一方で提示した公開買付価格が高いという仮想事例を想定する。この場合、対象会社としてはシナジーの大きいA社による公開買付けを賛同したいところであるが、公開買付けへの応募により株式の処分を予定している大株主としては、シナジーよりもより高い公開買付価格を提示するB社と応募契約を締結することを希望するであろう。(大株主自身も上場会社であればなおさらであろう。)このような状況で、対象会社経営陣が大株主に対してシナジー獲得のためにA社による公開買付けに応募するよう説得することは至難の業と言える。

また、「シナジー」と言っても、公開買付け開始時点ではそれを実現する方策が具体的に固まっておらず、公開買付者とのシナジーの存在と内容について十分な説明が難しいことも珍しくない。上場を維持する意義にしても、積極的に上場を維持する理由があるとは限らず、例えば公開買付者の資金的な問題から、全部買付けができずやむをえず買付株式数に上限を設定しているに過ぎない場合もありうる。

このように、対象会社にとってはアウト・オブ・コントロールといえる制約的な環境の中で行動しなければならない場合が多い。そのような中にあっても、対象会社経営陣としては、自己が会社に対して善管注意義務を負い、すべての株主の利益のために行動しなければならないことを再認識した上で、公開買付けにおいては少数株主の利益を保護する立場にあることを十分に理解し、公開買付者や応募する大株主等の関係者との協議や、積極的な情報開示に努めるべきであろう。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録

取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/


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