労務デューデリジェンスとは?

一般的に、M&Aのデューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aの際に企業の監査を行うことをいいます。通常は合併であれば合併する側、買収であれば買収する側が相手企業や事業部門に対して行います。もちろんIPO(株式上場)、事業承継など、いろんな場面でのデューデリジェンスがあります。

デューデリジェンスは、これまで一般に会計や法務に関して行われていました。会計のデューデリジェンスは財務状況を正しく把握するために監査を行い、法務のデューデリジェンスは法令が正しく順守されているかを精査するために監査を行います。

ところが最近は、たとえばサービス残業が横行していたり、労使間にトラブルがあったりなど、労務環境・就労状況の善し悪しがM&Aに大きな影響を及ぼすことも指摘されてきました。そこで、かつては会計や法務の一部として監査が行われてきた労務についても、しっかりと監査したほうがよいという機運が高まってきました。それが労務デューデリジェンスと呼ばれるものです。

実際にデューデリジェンスを行う人(機関)は誰か。会計のデューデリジェンスは主に公認会計士や税理士、およびその事務所・法人が担います。法務のデューデリジェンスを担うのは主に弁護士、およびその事務所・法人です。と同様に、労務のデューデリジェンスは主に社会保険労務士、およびその事務所・法人が担います。多くは、そのような第三者である資格者が、対象企業・社員の協力を得てデューデリジェンスを推進します。

いずれのデューデリジェンスを担う資格者もそれぞれの士業の資格があれば、誰でもできるという類いの業務ではなく、一定の知識や経験が求められます。また、最近は公認会計士・税理士・弁護士・社会保険労務士・司法書士・行政書士などの士業などがまとまって、法人組織をつくったりパートナー契約を結びあったり、また、それぞれのネットワークを活かして対応するケースも増えています。

そうした組織・ネットワークとM&A仲介業者、金融機関の投資部門などが提携しているケースも多いようです。それは、複雑化・広域化するM&Aに対して、できるかぎり“ワンストップ”で対応できるようにしようという、実際にM&Aの実務を請け負う側の意図・意向を反映しています。もちろん、そのことはM&Aの対象企業・事業部門の利便性の向上にもつながっています。

労務デューデリジェンスの基本的な流れ

労務デューデリジェンスの基本的な流れは、次のようなものです。

①全体計画の検討
目的やスケジュールについて、依頼企業や仲介業者、アドバイザー、また他のデューデリジェンスを行う士業の人などと相談・検討し、具体的にどう進めるかの見通しを立てます。

②労務デューデリジェンスの実施
全体計画のスケジュールに沿って、対象企業の担当者・社員の協力を仰ぎつつ実施します。

③関連する資料の収集と精査
他のデューデリジェンスと同様、労務のデューデリジェンスも対象企業の就業規則や労働者名簿、賃金台帳、労使協定、服務規程などで内規扱いのものなど、各種の労務関連資料が精査の基本となります。そうした労務関連資料のうち必要な資料の提出を受け、精査していきます。

④ヒアリングや追加調査
上記の労務関連資料の精査とともに、必要に応じてヒアリングや追加調査を行います。実際には、上記資料の現状の確認というより、守られていない規程、帳票類の誤記載などがあった場合について、個別リスクの状況把握や確認などを行うための、ピンポイントの聞き取りが多くなります。

⑤労務監査報告書の作成
上記①〜④を踏まえて、「労務監査報告書」というレポートとしてまとめます。どうまとめるかは、労務のどの部分に焦点を当てるかなど、そのデューデリジェンスの目的によって変わってくる面があります。

⑥改善計画の策定と実施
依頼企業の要望、また案件内容によっては、監査報告書で指摘した事項について改善のアドバイス、改善計画の策定とその実施など、踏み込んだ対応を行うケースもあります。ただし、「労務デューデリジェンス」に限定すると、上記⑤の労務監査報告書の提出までが重要な業務であり、⑥は別のコンサルティング業務に該当するという考え方もあります。

なお、M&Aの労務デューデリジェンスにかかる料金は対象企業の規模、調査範囲、ヒアリング・現地調査の日程の増減などによって大きく変わり、一概にはいえません。数十万円から数百万円とさまざまで、大規模な海外M&Aだと千万単位になるケースもあります。ですから、他のデューデリジェンスと同様に、利用する企業は①の段階、またその前段階で、きちんと受託先と相談したり見積りをとったりすることも欠かせません。