【M&A戦略】クロスボーダーM&Aにより、ニッチトップ事業を拡大

同社のM&Aの特色として、海外企業を買収する「クロスボーダーM&A」による自社のニッチトップ事業の拡大が挙げられる。下表に見るように、2001年にスイス・クラリアントの事業買収、2004年の独・HTトロプラストのPVBフィルム事業の買収、2012年の米・モノソルの買収、2014年の米・デュポンのビニルアセテート事業の買収と、自社のコア事業の1つであるビニルアセテート事業とシナジー効果のある事業の買収を重ね、売上及び収益の拡大につなげてきた。

クラレのM&A

2001年 スイス・クラリアント社のPVA関連事業を300億円で買収
2004年 ドイツ・HTトロプラスト社のPVBフィルム事業を買収
2005年 米国セラニーズアドバンスドマテリアル社のポリアリレート繊維(ベクトラン)事業を買収
2006年 クラレヨーロッパ社がクラレスペシャリティーズヨーロッパを吸収合併
2008年 クラレアメリカ社がエバールカンパニー・オブ・アメリカ社およびセプトンカンパニー・オブ・アメリカ社を吸収合併
2008年 ポバールアジア社の全株式を取得し子会社化
2012年 産業用ポバールフィルムを扱う米国モノソル社を買収
2014年 バイオ化学品企業の米アミリス社への戦略的出資を行う。出資額は400万ドル。
2014年 米国DuPont社のビニルアセテート関連事業を596億円で買収
2015年 バイオマス由来のバリアフィルム事業を扱う、オーストラリアのプランティック社を買収
2015年 100%出資の子会社である㈱バイオハードカーボンを吸収合併
2016年 100%出資の子会社であるクラレケミカル㈱を吸収合併

M&A Online編集部作成

クロスボーダーM&Aで成果あり -3つの理由-

数多くの企業がクロスボーダーM&Aで失敗する中、同社のM&Aは現時点では多くの成果を収めている。その理由は大きく3点に分けられる。

まず挙げられるのが、コア事業である得意分野のシナジーを具体的に想定し、「強いものはとことん伸ばす」買収であるということだ。自社の独自技術に対するこだわりは創業以来、継承されており、「独創」の精神を基礎としてM&Aを新しい産業の領域を開拓する戦術として活用している。M&Aは単に売上の拡大を生み出すものではなく、「コア事業とシナジーを生み出し、収益性の高めていくことが重要」という対応だ。

2つ目に挙げられるのが、買収後のマネジメントについてのハンズオフ経営である。ハンズオフ経営とは買収後の経営・マネジメントを買収先に任せる手法のこと。製造業のM&Aでは譲渡企業の技術者の流出が課題であるが、クラレのハンズオフ経営は譲渡企業の技術者のモチベーションを維持し、PMI (Post Merger Integration。M&A成立後の統合プロセス)の効率的運用が図れている。それは、たとえば海外企業の買収により増加した外国人社員をテレビCMの企画案のプレゼンテーションに参加させ、チームワークの強化を図っていることなどに見てとれる。M&Aにおいて人材のパフォーマンス向上の効果は大きい。

3つ目に挙げられるのは、買収後の設備や資金の追加投資にも積極的であるという点である。M&Aは目的ではなく手段である。買収後に事業シナジーを創出していくためには、人的資源の有効活用や追加投資による、さらなる事業拡大が必要である。PMIを効率的に進めることによって、買収が単なる足し算でなく、掛け算的な業績向上に結実させることができる。

補足的に加えると、得意分野を伸ばすためにM&Aを積極活用する一方で、不採算事業については縮小・撤退を進めていることを指摘しておきたい。前述のように、創業以降、主力事業であったレーヨン事業については2000年代に入り撤退し、1980年代に売上の8割を占めていた祖業の繊維事業は、現在は2割以下にまで縮小している。

また、2015年には100%出資の子会社である㈱バイオハードカーボンを吸収合併し、2016年には同じく100%出資の子会社であるクラレケミカル㈱を吸収合併する。このように、子会社についても合併を進め、効率化に努めている。

創立90年の同社が独・BASF並みの14%内外の営業利益率を誇る高収益企業として事業を継続できているのは、ビジネスユニットを精査し、事業の選択と集中を効率的に実行してきたからである。「不易流行」を経営に活かした企業の好事例と言えよう。