M&AやIPOの際、デューデリジェンス(DD)は欠かせない業務の1つ。特に最近では、財務や法務のDDに合わせて労務面のDDの重要性も増してきた。

M&Aにおいて、財務DDは一言でいうと、買収の対象先が不適切な経理を行っていないか、また自社の経理・会計と買収先の経理・会計との整合性を保つための手続きで、法務DDは契約面で不適切な契約はないか、自社の契約と買収先の契約との整合性を保つための手続きである。

「その点では労務DDも同様に、不適切な労務取り扱いはないか、自社の労務と買収先の労務との整合性を保つための手続きと言っていい。労務DDの重要性が増しているのは、買収先で働いている人に直接的に関わる対応のため、“センシティブ”になるからでしょう。M&AやIPOにあたって労務の問題は、微妙な行き違いもあるだけに、DDも慎重に行う必要があります」(HRプラス社会保険労務士法人代表社員・佐藤広一氏、以下発言は同氏)

そこで、この労務DDで実務的に押さえておきたい用語を3つほど挙げて、まとめてみた。

会社分割で行う労働契約は、【労働契約承継法】に規定される

M&Aの手法の1つである会社分割は、権利義務を既存の会社に引継がせる吸収分割と、新しく設立する会社に引継がせる新設分割に大別できる。その会社分割において会社と社員の間で結んでいた労働契約は労働契約承継法に規定される。

「労働契約承継法は全8条からなる法律であり、それほど大部ではないので、該当するM&Aを行う企業の実務担当者は法令の主旨を理解し、手続き面に不備がないかチェックしておくことをお勧めします」

条文の内容としては、

  • ・社員や労働組合への通知(2条)
  • ・労働契約の承継に関する関連事項の扱い(3条)
  • ・社員から異議申立てがあった場合の対応(4〜5条)
  • ・労働契約の承継に関する規定(6条)
  • ・社員の理解や協力を得る努力をすることに関する規定(7条)

などから構成されている。なお、社員との協議に関しては2000年の商法附則(法律第90号)5条に関しても留意する必要がある旨を指摘しておきたい。

【7条措置】を意識し、社員の理解と協力を得ることが大事

会社分割において、どのように社員の理解と協力を得るか。それは労働契約承継法7条に規定された「分割会社は、当該分割に当たり、厚生労働大臣の定めるところにより、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする」という条文に基づいている。これが「7条措置と呼ばれるものだ。

条文としては素っ気ないものだが、それだけに「社員の理解と協力を得る努力」の内容を十分に議論しておきたい。その会社分割の理由や背景を説明するとともに、それぞれの社員が承継される事業に従事するかどうか判断基準の説明が求められる。また、社員との間に生じた問題の解決手続きの説明などが重要である。

さらに、労働組合の団体交渉権の扱いのほか、実務的には社員の理解と協力を得る努力をいつから始めなくてはならないか、などに留意する必要がある。