前回と前々回で人事制度を通じた買収先企業の統合について解説してきました。まずは人員構成や人件費のコントロールに、次に買収先会社のキーマンを把握することに焦点をおいて、段階的に人事制度統合を進める方法を述べました。

最終的には旧組織の枠を越えて、社員間で自発的な情報共有や相互協力関係が生まれる状態を目指さなければいけません。そのためには社員が同じ組織の一員という意識を持ちながら共通の価値基準や行動規範を内在化していなければならず、人事制度の総合的なアプローチが求められます。

本稿では、特にクロスボーダーM&Aの場合や、国内M&Aであっても重要な海外子会社が含まれるような場合を想定して解説します。

コアとなる価値観を再設定する

人事制度は、その組織が重視する価値基準や行動規範と密接にリンクしているものです。またそうでなければなりません。人事制度を見直す前に、まずはこの価値基準や行動規範はどうあるべきかを考えることからスタートします。

統合する双方の会社の価値基準や行動規範が同じか似ている場合を除けば、M&Aを機に双方の会社の社員が納得できるものに見直すことを勧めます。価値基準や行動規範が会社の創業精神をベースにしている場合もあるでしょうが、旧組織の枠を取り払うことを考えれば、創業精神にこだわらず将来を見すえて柔軟に変えるべきです。

クロスボーダーM&Aの場合は、日本企業の競争力の源泉ともなっている特殊性をあえて打ち出すという方法もあります。例えば海外では社会的格差が固定化してしまって、それがそのまま職場内にスライドしたかのように管理職と管理職以外、事務系職種と現業系職種の間に溝が生じていることは珍しくありません。

そのような国に所在する日系企業で働く現地社員に「この会社のどこが好きか?」と聞くと、社員のモチベーションの高い会社ではほぼ必ず「チームワーク」という答えがかえってきます。海外の人が感じる日本企業の強みは何か、自社のキーマンにインタビューをしてみれば把握できるはずです。

現地社員に「この会社のどこが好きか?」と質問してみよう(Photo by rawpixel.com)

評価制度と教育への展開

人事制度がサポートすべき新たな価値基準・行動規範が決まったら、これを中心に評価、報酬、昇進・昇格、教育などの人事制度の各パーツが整合的になるよう見直します。とりわけ評価制度への展開が重要です。

価値基準・行動規範にそって日々活動しているかを評価できるよう、評価項目を見直します。既存の評価項目をゼロベースで作り直すことができればベストですが、難しい場合は旧各社がもっている既存の評価項目に「チームワーク」など今後重視したい項目を追加するだけでも十分です。

教育訓練も重要です。今日、国内・海外問わずコンプライアンス教育を実施している企業が増えていますが、コンプライアンス教育の一コマに自社の価値基準・行動基準について説明する時間を設けましょう。