日本企業が外国企業を買収するアウトバウンドの大型M&Aは活発 になっている。だが、PMI(Post Merger Integration、買収後の統合プロセス)がうまくいかず、思うようなリターンを上げられないケースも多い。PMIのカギを握るのは、買収先企業の 経営陣との関係だ。国内外の企業のM&Aに関わる人事デューデリジェンスや組織・人事面での統合を中心としたコンサルティングに豊富な実績を持つ マーサージャパン グローバルM&Aコンサルティング部門 プリンシパルで、この4月1日に部門代表に就任した島田圭子氏が語るM&Aを成功に導く人事施策のカギを短期集中連載する。 最終回は、後継育成計画について伺った。

現経営陣の留任に成功したら、
後継育成計画に着手する

――ガバナンスの構築には、現地経営陣の理解を得ることも重要なのでしょうか。

 日本側から派遣できる経営者がいなければ、買収先の現経営者をリテインする(留任してもらうように働きかける)ことが重要です。留任の条件として、多くの経営者が求めるのは、従来の権限を維持するオートノミーです。一方で、リテインするために、相手の要求を丸呑みして、必要なガバナンスを利かせられなくなることは避けなければなりません。たとえば、経営会議についてはCEOの権限を維持するが、取締役会の決議事項を変えてガバナンスを利かせる。プライドの高いCEOなら、部下からのレポートラインや部下から見える権限を変えずに、メンツを守る工夫をすることも大切でしょう。本社のさまざまな部署がバラバラに報告を求めることも、CEOのモチベーションを下げる大きな要因なので、レポートラインと情報共有を明確に分け、指示命令として報告を求める場合にはCEOのレポート先の役員から依頼することをきちんと守るといった配慮も必要だと思います。

――経営陣のリテンション(人材の引き留め)を成功させるために注意すべき点は何でしょうか。

 情報が非常に限定されている場合には、まずCEOの経歴、出身業界や、年齢、家族状況等可能な限りのバックグランドを把握します。たとえば、Sellerがプライベートエクイティのケースで、プライベートエクイティファンドから雇われたCEOは、買収に際して多額のトランザクションボーナス(売り手企業が売却の完遂を動機付ける為に取引成功時に重要関係者に支払うボーナス)を受け取るので、特にハッピーリタイアメントを頭に描いている年齢層ののCEOの場合は、留任の可能性は低くなるでしょう。買収対象事業の事業領域の経験の浅い、再建専門の経営者も同様です。逆に、同じ業界・地域出身で、その時期にCEOを求めている会社が同地域で他に見当たらなければ、留まる可能性は高まります。このように当たりをつけた上で、現行の処遇条件等も請求した上で精査し、その上で経営陣と個別インタビューを行い、ポストディールに関する期待や不安等を含めて経営陣の意向を多面的に把握するよう努めます。弊社がご支援する場合には、現地のシニアな役員報酬専門コンサルタントが第三者として現地語でインタビューをすることによりうまく引き出すよう工夫をします。先述してきたように、ガバナンス面でCEOのモチベーション維持に配慮するほか、家庭の事情や勤務形態等についても、柔軟に対応することで、留任の確率を上げることができるでしょう。その上で非常に鍵となるのは、今後の事業構想を買収側の代表者が伝え、それに経営陣が心から賛同できるかどうかになります。

――CEOの辞任に対しては、どう備えたらよいでしょうか。

 それでも、さまざまな事情からCEOが辞めてしまうリスクは避けられないので、備えとしてコンティンジェンシープラン(非常事態に備えた計画)を検討しておくことも重要です。後継者については、社内における候補者の有無や、その候補がすぐに代替できるのか、もう少し育成のための時間が必要なのか、といった状況を把握します。社内に後継候補者が不在ならば、外部からの採用も検討しなければなりません。

 最近は、サクセッションプラン(後継者育成計画)について、日本企業の関心も高くなってきました。一人の経営者に頼っていると、事業環境の変化に対応できなくなるリスクもあるので、常に後継者のことは考えておくべきだという理解は広がっています。後継者についての人事会議を定期的に開催し、後継者の人材プールの状況や、ディベロップメントプランの進捗状況をモニターし、すぐに交代可能なのか、1年後なのか、3年後なのかといったタイムラインとプランのアップデートが必要になります。日本企業のグローバル経営人材の不足は一朝一夕には解決しませんが、中長期的なキャリアパスを設定し、30代の若手から執行役員候補クラスまで、いくつかの階層に分け、育成計画を設計する動きも見られますので、その成果が期待できると思います。

 海外子会社経営者の後継は、人材要件と評価の仕方を可視化して、親会社と海外子会社の認識を整合させておくことも大切です。買収して、経営者をリテインできたら、すぐに後継者の第二層のアセスメントを始めるべきでしょう。日本企業は、人材アセスメントをすると、相手から人員整理の準備と取られるのではないか、と遠慮を働かせる向きもありますが、タイミングを逸すると、一層やりにくくなります。海外では、買収した会社のガバナンスのためにサクセッションプランニングも必要だという考えは理解を得やすいはずです。後継者育成のためという前向きな目的を示して、早期に始めるべきです。

――M&Aについて、日本企業と海外企業との違いはどこにありますか。

 日本企業の競争力向上の手段として企業買収という選択肢はこれからますます重要になるでしょう。ところが、M&Aは本来、買収時の株価に上乗せしたプレミアムまで含めた投資回収ができてこそ成功と言えるのに、日本企業の成否基準はそうはなっていません。欧米企業は、お金を投資してどれだけのリターンを得られるのか、という点を重視している一方で、日本企業は投資回収の意識が薄いとなれば、競争力を高めるはずのM&Aが、逆に競争力を失わせることになりかねません。

 M&Aを成功させるには、高い目標を設定して、経営陣にやらせきる厳しさも必要です。現地子会社が、買収時に立てている計画は高めに設定されているため、現地経営陣は、目標を保守的に下げようとする話はよくありますが、買収時にCEOがコミットした計画なら、簡単に折れずに達成を強く要求し続けるべきでしょう。経営陣のパフォーマンスが上がらずに計画が達成できないなら、報酬に反映させたり、辞めさせたり、報酬決定や任免といった人事の権限を活用すべきです。それを可能にするためにも、先述のサクセッションプランは重要になってきます。

――ありがとうございました。(完)

1回目:マネジメントを任せるならガバナンスをしっかり利かせるを読む

2回目:実際にガバナンスを機能させるために、意思決定プロセスを把握せよ

取材・編集:M&A Online編集部